闇の中で見つけた、微かで、眩しいもの4
闇の中で見つけた、微かで、眩しいもの4
俊介と清水会長が診察室を後にすると、しばらく誰も声を発さなかった。まったく、会長は・・・。爆弾を落として、自分だけ退散するなんて。まあ、しょうがないわね。ここからは私の仕事だし。さてと。宮田小百合は気持ちを入れ替えると、沈黙を破り、説明を続けた。
「休学するかどうかは、俊介君とご家族、大学間で十分に相談して決めてください。今日は睡眠薬や抗うつ剤を出しますので、忘れずに飲ませてあげて下さいね。薬の分量を間違えてしまう患者さんも少なくありませんから。また、抗うつ剤の効果が出始めるまでに時間がかかりますので、ご了承ください。何かご質問はありますか。」
すると、恐る恐る青葉涼が声を発した。
「あの、お兄ちゃんは大丈夫なんでしょうか。その、うつ病という言葉を聞いた時に、まっさきに思い浮かんだんです。自殺という言葉が。お兄ちゃんは大丈夫でしょうか。」
自殺という言葉が出たときに、母親の肩が、びくんと跳ねたが、構わず続ける。
「お兄ちゃんが死ぬなんて、考えたくないですけど・・・。どうしたら良いんですか。私には何ができますか?」
涼は目に涙を湛えながら、必死に問いかけた。宮田小百合は優しく微笑みながら、答えた。
「あなたは優しい妹さんね。心配な気持ちはすごくわかる。あなたにできる事は、温かい目で見守る事よ。困っている事があったら、手助けしてあげてね。何かあったら、いつでも私に連絡してね。
何もなくても、何か話たい事があれば連絡してね。お兄さんの事じゃなくても、あなた自身の悩みでもいつでも相談に乗るからね。」
そう言いながら、宮田小百合は連絡先が示してある名刺を手渡した。
「自殺の可能性についてだけど・・・。つらい事だけれど、正直に話すわね。」
沈痛な表情を浮かべながら、続けた。
「残念ながら自殺する可能性はゼロではありません。人事を尽くして天命を待つ事しか周囲の人間にはできないのです。
うつ病という重く暗い色は、青葉君の心の色と同化し、わがもの顔で青葉君の心に居座ります。その心の中にある色が、自分の本来持つ色なのか、うつ病の色なのか、本人にも判別するのが難しいでしょう。
うつ病という色を完全に消し去る事は非常に難しい。しかし、うつ病という重く暗い色を希釈するように、明るく輝かしい色を足し続ける事はできるはずです。そして、私はいつの日か、青葉君がそのうつ病という重く暗い色さえも、丸ごと抱き込んで、魅力的な自分の色を造りだすことができると信じています。
その魅力的な色を造り出した時、うつ病という重く暗い色を味方に変えて、青葉君にしか見えない視点で物事を見ることで、誰かを救う事ができる人になると信じています。」
宮田小百合は力強く、自分の決意を確かめながら語った。