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抱き締めたい

作者: 伊島東

足が冷たいので、彼女は靴下を履こうとした。

娘が買ってきた5本指ソックスを手に取って屈んだけれど、腹がつかえて、そして糸で閉めた傷口がピリッと傷んで腕が届かなかった。

そんな些細なことが無性に悲しく、出っ張った腹は忌々しくて、彼女は手にしただけになった靴下をぎゅっと握り込んだ。

なんでこんなことになったのかしら。

なんでこんなに惨めなのかしら。

涙を溢れさせながら、原因を突き止める行為は何度目かわからない。

繰り返し、何か新しい要因を探して誰かを責めても詰っても結果は変わらず、最終的にいつも悪いのは彼女自身だった。

被害者と加害者が彼女の中で暴れ回っているのだ。

どちらの“害者”に浸ることも出来ないまま一日は過ぎて、やるせなさと情けなさは彼女の心を蝕んだ。

そうして、いつしか彼女は涙を流すだけの生き物となった。

「 …… 」

益体のない妄想がぐるぐると頭を巡っていく。

この“おはなし”もそろそろ飽きた。

ふすまの向こうで母が呼んでいた。

いや、呼んでいるわけではないのかもしれない。

小さなうめき声とも泣き声とも取れる。

言葉はもはや通じない。

私は意味もなく肩を上下させると母の寝る部屋へと歩を進めた。

いつか自分もこうなるのかしら。

考えれば恐ろしさよりも不快になった。

不快な思いそのままに、勢いをつけて私はふすまをパシン!と開けた。

涙に濡れた目と合った。

こんな生物にはなりたくないものだ。


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