2話『父という背中』①
昭介さんは、咲乃の結婚式の招待状を俺の両親に渡すために、
俺の家に来ていた。
俺は、結婚の話を聞くのが嫌で昭介さんがいるまで道場で
竹刀を振っていることにした。
竹刀を無我夢中で振ることによって、咲乃を少しでも忘れられると思ったからだ。
「そうやって、咲乃嬢ちゃんを忘れているのか?え?バカ息子。」
親父は、道場に入ってきたとたん、俺の心の中をえぐってきた。
「・・・親父、冷やかしなら他でやってくれ。
今は、ちょっと相手する自身ねえよ。」
「ったく、なんでこんな残念な子になっちまったのかね?」
「うるさいなー、あんたの教育が悪いからだよ!」
柄にもなく俺は、大声を上げてしまった。
もう、自分が情けなくて、しょうがなかった。
親父も呆れていると思い、顔を見たが、その顔は真剣そのものだった。
「確かに、俺の教育なんて適当だ。
だがな、俺はお前に3つだけ大事にしろといったものがある。
お前は、それすらも忘れてしまった。」
3つのこと?金?女?酒?それぐらいしか父から教わったものなかったはずだ。
「もっかい俺が教育パパになって、一から息子にお勉強教えてやるよ。」
俺では、到底太刀打ちできないとすぐに分かる威圧。
親父の周りの空間は、いや、この道場全体は親父にすべて呑まれた。
「無理だ。わかってんだろ!
俺が親父には勝てないことぐらい!」
「そういって、あきらめるのか?見ないふりするのか?
嬢ちゃんという存在をなかったことにするのかよ!!」
親父がかなりの速さで、竹刀を振って、俺に当てようとしてきた。
ギリギリのところで、俺はとめた。
しかし、二発目を俺は見ることもできずにくらった。
「教育パパの、お勉強!
ひとーつ!『惚れた女につく虫は殺してでも潰せ!』」
「な、なにいってやがる、このバカ親父。
いきなり竹刀振り回すんじゃねえよ。」
弱弱しくも、俺は懸命に声を出す。
こんな、攻撃を食らったのは、小学生以来だ。
「残りの二つは、お前が思いだせ。
そしたら、俺はもう何も言わん。」
親父はきれいにまとめて帰ろうとする。
俺は、止めようとするが声が出ない。
そう思っている間に、父は道場を去った。
ひとーつ!『惚れた女につく虫は殺してでも潰せ!』
わが家の家訓らしき3つの言葉の一つ。
それが俺には、どうも心の痛みを強めていて、不快だらけだった。