表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

目覚めし者 その4

ジャック・ギャザリスの精神は肉体を離れ、愛馬パトレシアの記憶の世界にいた。喜びも苦しみも彼の全てを愛馬の記憶は飲み込んだ。





[パトレシア!パトレシアよ!返事をしろ!]



崖の窪みに落ちた愛馬の返事はなかった。




[ナア、パトレシアよ。いい加減、俺と契約しちまえよ。いつまで待たせるんだ?]黄泉の遣いピクシーは急かした。[今夜だ。今日一日待ってくれ。ピクシーよ。それまで話し相手にでもなってやるから][ハー………厄介な獲物を見つけたもんだ。お前が待っているその主はどんな奴なんだ?][俺の相棒だ。嵐の夜に出会ったのさ。俺は野生の馬だった。領地を人間に追われ、命からがら流れ着いたのが主の家だった。彼は俺を相棒と呼んでくれたのさ。俺は人間も悪いやつばかりではないと教わったらのさ][………長いのか?その話しは?][お前こそなぜピクシーなんかになってるんだ][考えた事は無いが世話役が好きなんだろ。気楽にやれるしな。黄泉に送って手取りが貰える。簡単な商いさ][商売人か?厳禁な奴だ。俺は向いてるか?その………商売人に][知らねーよ!俺はここで橋が落ちるって言うから迎えに来ただけだ!偶然見つけたのがお前なんだ!だから、早く契約しろって!大目玉喰らうのは俺なんだぜ!][………そうだったな。すまないな。ピクシー…………][………パトレシア。腹減って無いか?なんか採ってきてやっても良いぜ。迷惑のついでだ][………頼めるか?ニンジンを少し。ヒトカケでいい][わかったよ。ちょっとひとっ飛び行ってくるわ。待ってろよ]ピクシーは飛んでいった。




また一人になるパトレシア。[黄泉か…………悪く無いな。ジャックがいなけりゃ死んでた身だ。今日一日待って契約するかな]




ジャックは一晩中パトレシアを探していた。[落ちた橋にはいないだろう。まったくどこへ行ったんだ?][ジャック?お前仕事時間は過ぎてんだろ?何してるんだ?][オオ。馬を見なかったか?パトレシアを?][知らねーよ!職場に馬を連れて来る方が悪いんじゃないか?][…………そうだな]





皆に聞いてみたが誰も関心が無い。俺の相棒に。俺が見放したらあいつは孤児になるんだ。お前達、人間がそんな世界を作った!傲慢で、わがままで、図々しくて…………勝手に自然に介入し破壊の限りを尽くす。…………今日中に見つからなかったら…………俺は親衛隊を恨むぞ!謀反を起こしてやる!テロ組織、仮面邪教僧と結託して!






全てはジャック・ギャザリスの誤解だった。もし、あの時、崩れた橋でパトレシアを見つけていたら、彼はまだパンドラの聖杯を守っていただろう。





[パトレシアよ!こんな物しか無いが足りるか?][アア。贅沢は言えないさ。ありがとう]ピクシーは自分の好物の果物も持って来た。[たまには生き物と一緒に飯も良いかなって。悪い奴じゃ無さそうだし。一緒に良いだろ?][ン?何食べてるんだ?][果物だよ。下界の食いもんにしちゃイケるぜ!食うか?][アア………ピクシー………旨いか?コレ。ニンジンの方が旨いぜ][そうか?ジャー少し…………ペッペッ………ウー………なんだコレ?生臭いぜ!]二人は顔を見合わせ、高らかに笑った。[ヒーヒー…………お前といると飽きないな。ピクシー。考えたんだが……………ジャックが来る保証も無いし………その………お前となら黄泉の世界も悪く無いかなって][本当か!契約するか!][する。だが、1つ願いがある。ジャック・ギャザリスが道を誤った時、その時には、助けに行きたい。図々しい願いかもしれんが頼めるか?][なんだ。そんな願いか?そんなの簡単だよ!俺達は常に下界の様子を見てるんだぜ。俺と契約して、後は任せるわ。契約書出して良いか?アア………ココと、ココ。それから、ココにサインな]




ジャック・ギャザリスよ。世話になったな。一度拾われた命さ。俺は仲間の元へ帰る。良いだろ?お前のおかげでもう一度、人間を信じても良いかなと思えたのさ。今はピクシーだがな。ジャック。一言言わせてくれ。俺はいてはいけなかったのさ。下界には。そんな生き方さ。いつも頭の何処かにそんな思いがあった。お前に甘えるたびに。餌を貰うたびに。これからは一人になるが常に繋がっている。俺達の絆は。




ジャック・ギャザリスよ。どんな生き方であろうと、俺は構わない。ただ、懸命であればそれで良い。しゃかりきになって、飯を食べて、働いて、生活してりゃ、それが正解なのさ。




パトレシアは天高く舞い上がった。




[フー。やっとこさ向こう岸に着いたか。どっぷり日も暮れたがな。アレ?崖の窪みに俺が倒れてる][当たり前だろ?俺と契約するって事は死んだって事なんだから][そうか…………ハハハハ………改めて見ると小さな器だなあ。ピクシー。そうだろ?][行くぞ!ただでさえサービス残業なんだから!][ウン。行こうか。新世界に。待たせて悪かったな][ピクシーに謝った奴なんか初めてだぜ。パトレシア]






その後、ジャックは謀反を興す事となる。





[ジャック!ヨセ!止めろ!俺はそんな事の為に新世界に来た訳じゃない!][行くんだろ?パトレシア][アア。ひとっ飛び行って来るさ。ピクシー][待てよ。肉体が必要だろ?餞別でくれてやるさ。利子は高くつくぜ。また、楽しい話を土産に持って来いよ。サア。行きな][ありがとう。ピクシー。暫し旅に帰る][ハー…………赤字、赤字。とんだ貧乏神だな。アイツは。…………まあ良いか。期待はしてないし]ピクシーはパトレシアを見送った。





パトレシアと向かい合ったジャック・ギャザリスは現実世界に戻って来る。気がつくと、膝から崩れ落ちていた。





[久しぶりだな。主よ][アア。懐かしい。随分昔の話しに感じるさ][一月前の出来事だがな]







続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ