目覚めし者 その3
アインシャーク達が骸骨剣士と戦っていた頃、外ではジャック・ギャザリスと愛馬パトレシアの物語が始まろうとしていた。
[パトレシア。お前、死んだはずでは?][主よ。貴方は今のままで構わない。仮面邪教僧の手先になったのなら、それでいい。だが、1つ誤解している][誤解だと?][アア、そうさ。貴方は、神殿を守る、親衛隊だった。あの、貴方が破壊した、パンドラの聖杯を守る親衛隊。だが、親衛隊が愛馬を病めて以来、変わった。違うか?][………そうだ。かけがえの無い、盟友を亡くした、罪が俺を立ち上がらせた。邪神と契約を結んだ俺は、もう戻れないさ][主よ。貴方はその目で、親衛隊が愛馬を傷つける姿を見たのか?][………イヤ。見ていないが………わかるのだ。奴等なら殺ると。任務の邪魔なら殺ると!][………話を聞いてくれ]パトレシアは深く目を閉じた。
ジャック・ギャザリスの心にあの時の惨劇が蘇る。
ジャック・ギャザリスは愛馬と共に神殿へ向かう途中だった。
[パトレシアよ。今日は早く終わりそうだ。帰ったら、二人で誕生日パーティーをしようじゃないか?お前の][ジャックよ。覚えていてくれたのか?ありがとよ。アア。草木も祝福しているようだ。穏やかな会話が地面を通じて聞こえるぜ][サア、仕事だ。今日は早めに上がるから。その辺で遊んでろよ。良いか?遠くへ行くなよ]ジャックは馬を降り、パトレシアの腹を撫でた。嬉しそうなパトレシア。
それが最後の会話だった。いつもの事だが、ジャックは仕事に愛馬を連れていき、仕事が終わるまで野放しにしておくのだった。野花を食み適度に運動させた方がより、自然で逞しい馬に育つらしい。
[ヨオ!ジャック!今日も時間通りだな。まったく律儀な男よ][アア。何か連絡事項はあるかい?][イヤ。特に無いな。ジャー後頼むわ。お疲れさん]
ジャックは神殿の警備についた。
一方、パトレシアはその日に限り、機嫌が良かった。[ハー…………なんて気持ちの良い風なんだ。今日も暖かいな。感謝しなくてはな。これもそれも皆、神々のご加護があってこそだ]
パトレシアは少し遠くまで遊びに行った。
つり橋にかかり、なぜか向こう岸まで行きたくなった。
[ウン。多少ぐらつくが大丈夫そうだな。後でジャックに頼んでおこう。橋を補強するようにと]
パトレシアは恐る恐る、橋を渡った。ギシギシと音を立て、橋が軋む。丁度、中程まで来た頃、パトレシアは向こう岸に行こうとした自分を後悔した。
[マズイなー。かなり橋が弱っている。さて、引き返すか、進むか?迷ったら進めか?]パトレシアは走り始めた。残り後、少し。ほんの数センチで橋は切れた。
[マズイ!向こう岸に急がなくては!]気づいた時には、谷底へ向かっていた。丁度、崖の窪みがクッションになり、辛うじて、難を逃れた。
[イテテテ…………アー………無理はするもんじゃないな。若い若いと若さもたまに傷だな。あの時、引き返した方が良かったのか?ひょっとしたら間に合っていたのかも。ハー…………今さら遅いがな]パトレシアは向こう岸を見つめた。[夢中になって気づかなかったが、腹も減ったな。誰かニンジンのヒトカケ位、落としてくれないかなー]パトレシアは側を人が通る度に呼んだ。
[オーイ!ジャックを呼んでくれないか?神殿にいるはずだ!親衛隊のジャック・ギャザリスを呼んでくれないか?]馬の叫びに答えはなかった。
一匹の鳥がパトレシアの上空を飛んでいた。
[ナア!あんた!あんただよ!お馬さん!なんで、そんな崖の窪みなんかにいるんだい?][………落ちたのだ。助けてくれないか?鳥よ][鳥?失礼な!アタシャね、ピクシーだよ!ピクシー!黄泉の遣いピクシーさ!適当な獲物を探しに来たのさ。あんたに用は無いね。もっとも………黄泉に行きたきゃ話しは別だがね。手間賃はまけとくよ。普通は命1つだけど今日はお日柄も良く、半分………イヤ、四分一で良いさ。どうだい?乗るかい?][帰れないんだろ?][アア。そうさ。まだやり残した事があるならその時、交渉に乗るけどね。ただ、一回だけだよ][助けを待つさ。アア。暫くそこにいてくれ。退屈凌ぎにな]
いったい、どのくらい時間がたったのだろうか。辺りはぼんやり日が傾きかけていた。
[パトレシア。あんたも強情だねえ。さっさと契約しちまいなよ。黄泉の契約を][フン。死んでたまるか!奴は来るさ。きっと助けに来るさ。信じているんだ。盟友を]
一方、ジャックも仕事を終えてパトレシアを探していた。指笛でパトレシアを呼ぶ。
[オーイ!パトレシア!飯の時間だ!新鮮な野菜を持って来たぞ!]返事はなかった。
[ナア。俺の馬を見なかったか?][馬?アアいつもの馬か?今日は見てないな。それより向こう岸の橋が壊れたらしいぜ。明日修理するとか言ってたなー][そうか?ありがとう]
橋の話じゃねーよ!馬だ!俺の盟友パトレシアよ。どこに行ったんだ?まさか親衛隊が邪魔になって殺したんじゃ?イヤ、違いない。きっとそうなんだ。
続く