第2話:ガキ相手でも容赦はせんわい!!
そうしてワシはその日眠りについたわけじゃ。
その筈なんじゃがのう…。
何なんじゃこの真っ白な空間は。
んでもって、何なんじゃこの生意気そうなガキンチョは。
「山寺和仁さんですね。私は神様代行No42009号です。」
ああ、キチガイか、可哀相に。
この歳でそこまでバカじゃと、きっとロクな人生は送れんじゃろうのう。
まあ、こいつがどんな人生を送ろうとワシには関係ないがな。
一円も出す気はないが、同情くらいはしてやろう。
「それでガキンチョ、ここは何処なんじゃ? 」
それが一番大事な話じゃ。
まず、考えられるのは誘拐されたという線かのう。
世の中どいつもこいつも金の事しか考えて無い金の亡者じゃからの。
世知辛い世の中になったもんじゃわい。
しかし、金が欲しいならワシより金持ちのガキでも誘拐した方が合理的じゃからな。
そもそも、ワシの全財産は金庫に入っとる筈じゃ。
気付かれず家に進入出来るならそこで盗めばいい話、ワシを誘拐するメリットがないわい。
怨恨の線か? だが、それは考えられんのう。
ワシの商売は常に清廉潔白、誰かに恨まれるような覚えは更々ないわい。
さっきから何かガキンチョが喚いとるのう。
五月蝿くて仕方が無いわい。
「自分から聞いといて無視しないでください! ここは死者の選別を行う神の間です。
貴方は昨日の午後10時27分54秒に心臓発作で亡くなりました」
ああ、余りにもアホな事を言っとるから脳が拒絶しとったんじゃな。
これだからガキは嫌いじゃ、アホガキのゴッコ遊びに付き合ってる暇はないわい。
明日のビッグビジネスがワシを待っとるんじゃ。
「そこまでいうなら証拠を見せてみんかい」
何を驚いた顔してるんじゃ、このガキンチョは。
ガキ相手だからって誰でも優しくして貰えると思っとったら大間違いじゃ。
世の中そんなに甘く無いわい。
「この場所を見れば皆さん納得してもらえるんですが、まあいいでしょう」
何やらガキンチョの体が青白く光出しとるわい。
だが、こんなもんCGやホログラムで説明が付くんじゃ。
最悪、夢かもしれんという可能性は捨てられんからのう。
「甘い甘い、その程度じゃ大人をなっギェアァァアアアア!!!!」
な…何が起こったんじゃ。
ガキが光ったと思ったら、次の瞬間には激痛が襲ってきおったわい。
「雷を出す魔法です。これで信じて貰えますか? 」
魔法じゃと? た…確かにこの痛みは現実じゃ。
現代科学で再現出来んわけじゃないが、それも考え難いのう。
ワシを騙す為だけにそこまで大掛かりな仕掛けを用意する必要性は全くないわい。
これはひょっとすると、ひょっとするかもしれんぞ。
「…ってちょっと待たんかい!!」
「今度は何ですか?」
「何を呆れた様な顔をしとるんじゃ! よくもワシに電流浴びせてくれおったな!!」
つい流される所じゃったわい。
そんなツマラン事で人に雷を浴びせるとは、何てガキじゃ。
百万歩譲ってあのガキが神様代行とやらだとしても、所詮はガキはガキじゃわい。
人様に暴力を振るうなんて最低の行いじゃ、人間の屑じゃ。
「貴方が証拠を示せと…」
「じゃあ何か!? おのれは身分証明を求めらる度、毎回相手に電流浴びせるっちゅうんか!?」
「いや、それは…」
まだ言い訳しよるんか、このガキャあ。
ワシにここまでやらかしよって、タダでは済まさんわい。
「それは何じゃい!! 雷落とさにゃならん理由を説明出来るちゅうんか。おぉ!?コラ!!!!」
「いえ…スイマセン」
「分かれば良いんじゃ、分かればのう」
やっと己の非を認めおったか。
さあ、こっからはビジネスの時間じゃ。
ガキ相手とはいえ、容赦はせんからのう。
いや、ちょっと待てよ。
確か、このガキャあ神様代行とか何とかふざけた事ぬかしとったのう。
例え神様代行とやらじゃなくとも、不思議な力を持っとる事には違いないわい。
大掛かりな仕掛けを用意し取った可能性も0ではないが、
見方を変えればこいつにはそれだけの財力があるっちゅうわけじゃ。
ウヒョーーー!!鴨がネギを背負って来たとはこの事じゃ。
こんなチャンスは滅多に無いわい。
絞り取れるだけ搾り取ったらんかい。
「で、この慰謝料は幾らほど払って貰えるんかのう? 」
「え? さっき分かればいいって」
何を言っとるんじゃ? このアホガキは。
ゴメンで済んだら警察は要らんわい。
金、金、金、世の中金じゃわい。
「屁理屈ぬかすな!! わりゃあワシに雷落とした事忘れてるんちゃうやろのう? 」
「それは申し訳ないと…」
「だったら慰謝料払わんかい。魔法でパパッと出しゃあええじゃろがい!
雷落とす力があるなら100万や200万くらい軽く出せるじゃろうが!!」
そうじゃ、それ位やれば信じてやってもええわい。
何じゃ、またガキが青白く光り出しとるのう。
という事は、魔法とやらを使ったという事か?
ど…どこに金があるんじゃ。何も出て来とらんぞ。
ん?何かがバサバサと落ちて来とるわい。
こ…これは、金じゃ、札束が降って来とる。
「これで良いんですか? 」
「わ…ワシの金じゃ! 一円たりとも渡さんぞ!!」
「…いりませんよ」
ヒャッハァー! 笑いが止まらんのう。
一億はあるんじゃなかろうか。
あの程度でこれだけ貰えるなら、後100回くらい喰らってもええわい。
「これで話を聞いて貰えますか? 」
チッ、折角の良い気分に水を差しおって。
だが、このガキが只者じゃないと分かった以上、煽てといた方が得策じゃのう。
力が有るというてもガキはガキ、いざとなったら幾らでも丸め込めるわい。
「何なりとお申し付けください、お坊ちゃま」
「お…お坊ちゃま? まあ、良いです。普通、死後人の魂がどうなるかは二つに一つです」
「天国と地獄ですかいのう? 」
相変わらず意味の分からん事をぬかしよるわい。
まあ、適当に相槌を打っておいたらええじゃろ。
「いえ、そういった信仰の先にある聖地にたどり着くか、現代に執着して自縛霊になるかの二つです」
「ほう、それはそれは。流石お坊ちゃま、博識でいらっしゃる」
「普通なら我々もたかだか自縛霊くらいで一々動いたりはしないのです。
しかし、 今回の霊は現世に対して余りにも強力な執着力を持っているようで、
自縛霊となった時の影響力は計り知れなく、止むを得ず我々が解決する事になりました」
「それはまた、往生際の悪い奴もいるもんですのう」
何処にでもいるもんじゃのう、そういう見苦しい奴が。
進むときに進み引くときに引く、男は決断力が一番じゃ。
「貴方です」
「は? 」
「ですから、貴方がその自縛霊なんです。私の力ではどうこうするのは不可能でした。
お願いですから成仏して貰えませんか? 」
なっ…ワシが自縛霊じゃと?
そういや、心臓発作でどうとかこうとか言っとったような気がするわい。
だとすると、ワシのエリート人生(予定)はどうなるんじゃ。
死んだらこの札束の山だって何の役に立たんじゃろうが。
真面目一筋に生きてきたワシが何でこんな目に遭わんといかんのじゃ。
「嫌じゃボケ! 絶対に成仏なんかせんからのう!!
神様だと言うならさっさとワシを蘇らせんかい!!!!」
「死人を蘇らせる事なんて出来ませんよ。それに神様じゃなくて神様代行です。
良いですか? 貴方が成仏しないと大勢の人間が不幸になるんですよ? 」
「誰が不幸になろうとワシの知ったことか!! 」
そうじゃ、ワシ以外の人間はワシが幸せになる為だけに生きとるんじゃ。
ガキンチョが真っ赤な顔して何か喚いとるが知った事か。
ワシが不幸になるならワシ以外の人間も皆不幸になってしまえばいいんじゃ。
それが嫌じゃったらワシが不幸にならずに済む方法を考えんかい。
向こうにはこちらを成仏させる方法がないわけじゃからな、何時間でも粘ったるわい。
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