婚約者の浮気を知った私は、すべてを放棄した
4人の勇者パーティーは、魔王城から一番近い村まで来ていた。
「魔王討伐まであとちょっとだな」と黄金の鎧に身を包んだ勇者ルークは言った。
「この旅も終わりを迎えようとしてるってわけだ」とひょうきん者の僧侶サモハンが言う。
「長かったわね。けど魔王を倒せば人類に平和がもたらされるわ」と魔法使いアナスタシア。
「魔王を討伐したら、やっと私たちは結婚できるね」と女戦士である私は勇者に笑いかけた。
しかし勇者はなぜか目を泳がせて、
「あ、ああ、そ、そうだな。魔王を倒したら、平和な世界で結婚式を挙げよう」と言い、すぐに目をそらしてしまった。
最近はいつもそうなのだ。魔王討伐が近づくにつれて勇者の態度がよそよそしくなっていく。
1年前、私と勇者は王都の冒険者ギルドで出会い、魔王討伐のためにパーティーを組んで冒険を始めた。はじめのうちはただの仲間だと思っていたが、旅をしているうちに私たちは互いにひかれあい、結婚の約束をした。無事に魔王討伐を果たしたら結婚しようと勇者が言ったのだ。
私は、魔王を倒し勇者と結婚するために必死で頑張った。その甲斐あって、冒険の最初のころよりもずいぶん強くなった。以前はスライム相手に苦戦していたのに、今ではギガンテスと力比べをしても負けないぐらいだ。
「とりあえずこの村で自由行動にしよう。おのおので魔王城へ乗り込む準備をしてくれ」と勇者が言い、私たちは別行動をした。
私はより強力な武器を求めて武器屋へおもむいた。魔王城に一番近い村だけあって、強力な武器が売られていた。オリハルコン製のグレートソード、ミスリル加工されたモーニングスター、戦闘用斧のグレートアクス、伝説の戦士が使用したといわれる巨大なバトルハンマーまであった。
私は店主からの説明を聞きながら、それらの武器を手に取り、素振りをしてみた。迷った末に今まで使っていた大剣ツヴァイヘンダーを売ってグレートソードを購入した。
これは私の身長ほどもある特大剣で、これを扱うためにはかなりの筋力と技量を要した。しかし魔王を倒すためにはこの剣しかないと私は直感的に感じたのだ。
グレートソードを購入した私は、村の広場で素振りをした。どんなに優れた武器でも、それをうまく使いこなせなければ意味がないのだ。
ぶんぶんと剣を振っていると、広場の横の道を勇者と魔法使いが連れ立って歩いているのが目に入った。私は声をかけようとしたが、それを躊躇した。勇者と魔法使いがやけに親密そうに見えたのだ。
いつもみんなでいる時は、勇者と魔法使いはあまり話さない。仲が悪いのかと心配したぐらいだ。それなのに、今、並んで歩いているふたりはとても楽しそうにしていた。
私はとっさに茂みに身を潜めた。私がいることに気づかずふたりは通り過ぎていった。
なんだか心がもやもやした。
その気持ちを振り払うために私はまた素振りをした。
すると今度は僧侶のサモハンがお肉の串焼きを頬張りながら広場にやってきた。両手に何本もの串を持っている。
「エリザベス、精が出るな」
「サモハン」、私は剣を振る手を止める。
「一本食うか?」と串焼きの一本を差し出してくる。
「ありがとう」、私は串焼きを受け取った。
「ん? どうした? なんだか浮かない顔をしてるじゃあないか」
「そんなことないよ」
強いて快活を装い、お肉にかぶりつく。「おいしい」
「だろ。そこの屋台で売ってたんだ」とサモハンは笑った。
私とサモハンは連れ立って待ち合わせ場所の宿屋へ向かった。
宿屋に到着して、部屋のドアの取っ手に手をかけると、すでに部屋にいた勇者の声が聞こえてきた。
「まいったなあ、エリザベスのやつ、魔王討伐したら本気で俺と結婚する気でいやがる」
私はドアを開けようとしていた手を止め、耳を澄ました。
「どうするのよ、魔王を討伐したら私と結婚してくれるんでしょ?」
その声は魔法使いアナスタシアのものだ。
「もちろんそうする。冒険を始めたころはあいつもまだ弱くて守ってあげたくなるような可憐な女だった。そこに俺は惚れたんだ。だが、今では筋肉ムキムキの男か女かわからないぐらいのやつになりやがった。いくら何でもあんな奴と結婚する気はない。俺が愛しているのはお前だけだアナスタシア」
「じゃあさっさとそのことをエリザベスに言ってよ」
「まあ待て、いまはその時じゃない。いまそのことをエリザベスに言って、もしこのパーティーから抜けるなんて言われたらどうするんだ。エリザベス抜きで魔王に勝つことはできないぞ」
「それはそうだけど・・・」
「心配するな。魔王を討伐さえすればこっちのもんだ。婚約破棄してやるさ。そんなことより・・・」
「あっ、ちょっと、なにするのルーク」
「いいじゃないか。せっかくベッドもあるんだし」
「だって、エリザベスたちが来ちゃうじゃん」
「大丈夫さ。まだ来ねえよ。むしろこのスリルがたまらないんじゃないか」
「もうっ、しょうがないわね。さっさと済ませてよ」
「俺が早いの知ってるだろ」
私はドアの取っ手を握りしめたまま、声を殺して泣いた。とめどなく涙が流れた。勇者のために私は頑張って強くなったのに、そのせいで彼は私に魅力を感じなくなってしまったなんて・・・。
サモハンが優しく私の肩に手を置いた。
私は勇者パーティーを抜けた。勇者の本心を知った今、もう魔王討伐なんてどうでもよくなっていた。人類がモンスターに滅ぼされようがそんなこと知ったことではないのだ。
僧侶のサモハンも私と一緒にパーティーをやめると言った。
「あなたまで一緒にやめることないのよ」
「いいんだ。勇者とは前から気が合わないと感じていたんだ」
「これからどうするの?」
「僕は生まれ故郷の村に帰って畑仕事でもするさ。君は?」
「家族はもうモンスターに殺されていないから、帰る場所はないんだ」
「それなら僕と一緒に来ないか?」
「えっ、いいの?」
「もちろんさ」
私とサモハンがやめてふたりだけになった勇者パーティーは、魔王城で魔王に敗れ、ふたりとも命を落とした。
私はサモハンと共に彼の生まれ故郷の村へ行き、のんびりスローライフな生活を送った。村の人たちは温厚で優しく、よそ者の私を受け入れてくれた。
数年後、私はサモハンと結婚した。魔王はまだ倒されてはいないものの、人類は存続し続けている。
もうすぐ子供が生まれる。
もしこの村がモンスターに襲われたら、その時は全力で村を守って私は戦うだろう。大切なものを守るために。




