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一人百物語

見えていない目で

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/19


私の父方の祖父は子供の頃から身体が弱く、三十代には目も見えなくなり、床に伏せがちな一生だったらしい。

その祖父が亡くなる時の事。

今にも消えそうな息をしていた祖父が急に目を見開け


「おい、迎えが来とる」


と言った。

それに床の周りに集まっていた家族が顔を見合わせていると

「迎え、迎えが。来とる。旗が見える。手ぇ振っとる。なぁ、あそこまで連れてってくれ」

となおも祖父は言い、病やつれで痩せしなびてしまった腕で枕元にいた伯父(私の父の兄)の腕を握りしめた。

しかしその力はそんなか細い手で掴まれているとは思えない様な物凄い力で、

「なぁ、あそこまで連れてってくれ!手ぇ振っとる。お前も、お前も一緒に来い!連れてってくれ、連れてってくれやぁ!」

と大声をあげた。

それに伯父はさすがに気味が悪くなり

「そんなものおらん!」

と祖父の手を振り払った。


しばらくの後、祖父は目を開けたまま亡くなり、何度閉じさせてもまた目を開けたらしい。

祖父には何が見えていたのか。


見えていない目で。



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