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少し歩いてたどり着いたヤードの入り口にある小屋に入る。
カウンターにいる褐色の女に顔を見せると挨拶より先に「おう、例の品物入ったよ」と言われた。
そう言えばこの女も曖昧な経歴だ。もしかしたら無国籍アンカーの段ボール九龍育ちかも知れない。
だがそんな事は関係がない。言葉が通じれば十分だ。
「マジで?もう中華製でもなんでも良かったから助かる」
見せてくれと言うおれに褐色が入れ乳の間から出したバッテリーは、多言語表記で出処が不明の怪しいものだった。
しかし端子を見るに適合するタイプらしい。
「大丈夫そうだな。ありがとう、助かるよ」
手を伸ばすおれから女はバッテリーを遠ざけた。
「金は払うって。バッくれた事はねぇだろ?いくらだ?」
財布を広げるおれに女が笑った。
「支払いじゃないよ、何ならこっちが払う側だからね。いつ連れてきてくれるんだい?」
「いいや、ダメだ。支払いは支払い、受け取りは受け取りで分ける主義なんでな」
おれは女の緩い胸元に丸めた札束を捩じ込んだ。
女はそれに反応せず「自分の爺さんとフローティングバイクを交換だって?イカれてるね」と笑った。
「どうかな。脳細胞何個かで箱に入ってでも生きたいと思う方がイカれてるとしか思えないがな」
そんな事よりバイクのケツに乗せてやるよと言うと、女が舌で頬を膨らませた。
「夜まで予定は空けておこうかね」
おれは笑った。
笑ったのは確かが、それが愛想笑いなのかおもしろかったのかわからなかった。
ひとの少ない早朝の東八空路を飛ぶ。
刺すような朝陽が目に痛い。
おれは朝陽から逃げるように進路を西へと決めた。
アクセルを開ける。速度が上がる。空気とスモッグがクリームみたいな粘度でおれを包む。
速度が上がり続ける。バラバラになりそうな振動。デタラメに脈打つ心臓。呼吸すら忘れて速度に身を任せる。
このまま地面に向かって行きたい。
ハンドルから手を離したい。
おれがジジイを殺して(いや?解体か?)手に入れたバイク!おれは天国に辿り着けないだろう。行く先は地獄か?そんなものがあるならそこでいい。
メーターが振り切れる。
おれは呼吸を再開する。狭窄していた視野が広がり、脳みそが通常の動きを取り戻す。
おれが死んだところであの女はおれをジェイムスン型に詰めたりしないだろう。
このバイクとくっつけたりもしない。あの女が死んでもおれがそうしないように。
空路警察の黒いフロートバイクが走って行くのを見送った。
スピード違反、飛行区域違反、一時停止違反。合わせて免停半年。そんなもんだ。
おれが祖父をバラしてまで手に入れたかった瞬間は終わった。別に大したことは無かった。
おれは怒っているみたいなアイドリングのフロートバイクを撫でた。褐色の女が待つおれの部屋に帰ろう。
軽口を叩いて、今度こそ薄いコーヒーを飲みに行く。きっとババァは余計なことを言うが、そうでもしなきゃおれたちは生きている事を信じられない。




