8話:モクズショイ
モクズショイは本当に体中がふわふわしていて不思議なカニです
異世界生活三日目
ガザ爺とワタリガニさんたちのおかげで、私の住処はとても安全になった。
硬かった床も、ミコちゃんに頼んでコメちゃんズに草を敷いてもらったおかげで、昨日よりもずっと快適だ。
けれどここで――私は重大な問題に直面していた。
そう!
もう三日も同じ服を着ているのです!
体はなんとか水浴びで清潔に保っていたけど、
この南国の陽気で三日も同じ服なんて、うら若き乙女としては耐えられない!
ということで、ミコちゃんに相談してみる。
「ミコちゃん! なんとか服を用意できない?」
「服? メグミがいつもつけてる、ひらひらのこと?」
「そうそう! 新しいひらひらが欲しいの!」
「うーん……ひらひら……葉っぱとかじゃダメ?」
「だめ! ゴワゴワするし、もっと安心して着られるやつがいいの!」
「メグミよ、ミコちゃんをあまり困らせるでない。ひらひらしたものなら、わしに心当たりがある」
「ガザ爺! 頼りになる!」
「じゃがのう、あやつら、なかなか姿を現さんからのう……ふむ、ワタリガニたちに探させるとするかの」
「コメちゃんズじゃだめなの?」
「コメちゃんズはようけおるが、泳げんじゃろ。ワタリガニたちは泳ぎが得意じゃからの、捜索にはうってつけじゃ」
「もしかして……ひらひらって海の中? 海藻だったら服にできないよ!」
「それはわかっておる。あやつらが見つかれば、なんとかなるはずじゃ。安心するのじゃ」
「ということで、ミコちゃん。ワタリガニたちに説明してきてくれんかの」
「まかせて!」
ミコちゃんは元気よく走っていった。
しばらくして――ワタリガニさんが一匹戻ってきた。
なんとなく、最初に話した子のような気がする。
「ガザ爺! メグミさんのために“隠者”を探しに行くと聞いて、参上しました!」
「うむ、まさにその通りじゃ。お主なら海でも自在に泳げるじゃろう。あやつらを見つけて、何とかメグミに引き合わせてくれ」
「お任せください! では早速、行ってまいります! 吉報をお待ちあれ!」
ワタリガニさんは勢いよく住処を飛び出していった。
「ガザ爺……それ、本当に大丈夫なの?」
「やる気だけは、カニ一倍あるようじゃからのう。なんとかなるじゃろ」
しばらくして――
「メグミさん! “奴”を確保してまいりました!」
ワタリガニさんが戻ってきた。そしてその後ろには、ふわふわとした見た目のカニさんが一匹。
【モクズショイ】
・クモガニ科。甲幅3cmほど。細長い脚とクモのような姿。
・体に海藻やカイメンなどを付け、擬態する習性を持つ。
・食用にはしない。身が少なく、何を身につけているかわからないため、敬遠される。
またカニペディアが発動。
身が少ない以前に、そもそも何を身につけてるか分からないって何なの……? そして、やっぱり食べようとしてる前提なのね……
「我を無理やり潮だまりから引っ張ってきて、連れてきたのは……ここか」
「ワタリガニさん、無理やり連れてきたの? それはダメだよ……」
「いえ! 私はただメグミさんの素晴らしさを説き続けただけで、無理に連れてきたわけではありません!」
「……あんなに騒がれては迷惑だから、我が折れただけだ」
「あっ……うちのワタリガニさんがごめんなさい」
「いや。お前が謝る必要はない。我は一目見てわかった。お前こそ、我らが求めていた者だと!」
「……え?」
「その見事な“海綿の纏い方”。我らでは到底到達しなかった境地――聞けばお前は、新たなる海綿を必要としているというではないか!」
「……あ、いや、海綿じゃなくて……たしかに“着るもの”が欲しいのは本当なんだけど」
「わかっている。我らの技ではまだ足りぬ……だが、挑戦させてほしい!」
「我が仲間を説得し、必ずやその身に纏う“海綿”を超える“海綿”を――!」
「えっと……そこまで熱弁されたら、断るのもアレなので……お願いします」
「うむ! 故郷の仲間たちに良き報告ができる……!」
そう言って、モクズショイさんは海へと帰っていった。
……私の服、本当にちゃんとできるのかな。
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