6話:ノコギリガザミ
ノコギリガザミは現実でも相当デカくて威圧感があるカニです。
異世界生活二日目(続)
私たちは、ベンケイガニさんの先導で沼地にやってきた。
「着きましたぞ!では拙者はこちらに――」
そう言うなり、スススーッと最後尾に回り込むベンケイガニさん。
「ベンケイガニさん、なんで下がるの?」
「沼の長老は恐ろしいのですぞ!拙者が一番大きいのだから、真っ先に狙われたらどうするのですか!」
「……こいつ連れてこなくてよかったんじゃね?」
「だっさ!」
「まあ、土は掘れるだろうし、そのうち役に立つさ」
みんなから散々な言われようだ。
そんなやり取りをしていたその時――
ズゴゴゴゴ……!
沼が盛り上がり、泥を突き破って巨大なカニが姿を現した。
【ノコギリガザミ】
・ワタリガニ科。甲幅20cmを超える大型のカニ。非常に強いハサミを持つ。
・マングローブ林や河口の汽水域に生息し、夜行性で貝などをハサミで砕いて食べる。
・食用可。濃厚な旨味で高級食材として扱われる。東南アジアでは「マッドクラブ」とも呼ばれる。
またしてもカニペディアが起動。そして「高級食材」とある。
……いや、食べないけどね?
「ふうむ、騒がしいと思ったら……これはどうしたことか。カニが群れておるとは」
重く太い念話が、頭の奥に響いてくる。
年季を感じる声だ……これは大物の予感!
「ふむ。まあ、この辺りでは、わしが一番の古株じゃろうな」
また……考えてることが筒抜けだった。
それにしても大きい。
今まではベンケイガニさんが一番だったけど、それより何倍もあるし、ハサミもギザギザで、まさに“王者の風格”。
「それで――人間のお嬢さん。この年寄りのカニに、何の用かの?」
「!? ノコギリガザミさん、人間がわかるの?」
「ふむ、わしは“海の王”から話を聞いてな。人間という生き物がいることは知っておる。見るのは初めてじゃがの」
「じゃあ……すごく物知りなんですね!」
「ほほう、まあ、そこらの若造よりはの。何か知りたいことでもあるのか?」
「あ、いえ、質問じゃなくて――。ノコギリガザミさん、わたしたちの用心棒になってください!」
「……用心棒とな? 急じゃのう」
「私、今は浜辺で巣穴を作って、カニさんたちと暮らしてるんです。でも、森の外敵を追い払うには力不足で……。
今までは、カニさんたちが犠牲になってどうにか切り抜けてきたんですけど、それがどうしても嫌なんです!」
「ふむ。……わしも年じゃからのう。力が残っておるかどうか……」
「そこをなんとかっ!」
ガサガサガサ!
――その時、木陰からヤマネコが飛び出してきた!
「ヤマネコだ!メグミを守れ!」
コメちゃんズがヤマネコへ突進しかける。
「しずまれ、小ガニたちよ。……ここはわしに任せよ」
ノコギリガザミさんが一気に距離を詰め、あの巨大なハサミでヤマネコをがっちり挟み上げた!
「わしの縄張りに入ったこと、後悔するがよいぞ……!」
さっきまでの穏やかな口調はどこへやら。
一瞬で戦闘態勢に切り替わっている!
そのままヤマネコを森へとブン投げる。
ガリッ! ザシュッ! ブシュッ!!
……ものすごく物騒な音がした。
カサッ……
そして、ノコギリガザミさんは血まみれで戻ってきた。
「ふむ、たいしたことなかったの。……で、なんじゃったかの? 用心棒だったか?」
「は、はいっ!ぜひお願いします!」
「……一匹暮らしにも飽きてきたところじゃし、引き受けようかのう」
「本当!? ありがとう、ガザ爺!」
――あっ、勢いであだ名をつけちゃった。
「ほっほっほ……ガザ爺。ええ名前じゃのう。気に入ったぞい」
どうやら好意的に受け取ってくれたみたい。
こうして私たちは、ちょっとトボけてるけど、とんでもなく強い「ガザ爺」を仲間に迎えたのだった。
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