49話:孤高のガンマン テッポウエビ
たまにはスローじゃないことも起こるよ。
異世界生活四十四日目
わたしたちの稲探しの旅は、何事もなく順調に2日が過ぎていた。
「もう半分くらい来た? センシくん」
「順調ではあるが、まだ半分には届かないな」
「は~……すっごいスピードで進んでるのに、まだなのかぁ」
「そろそろ真水も汲み直す必要がありますね」
「沢のことなら任せろ。俺が案内する」
「えっ、サワキさん? ここ全然違う場所なのに、わかるの?」
「俺たちサワガニは森のどこにでもいる。その情報網で、どこにどのくらいの沢があるかは把握している」
「なるほど……道案内が得意な理由って、そういう秘密があったんだね」
感心しながら森へ分け入り、新しい水を瓶に汲んで飲料水を確保する。ついでに淡水カニさんたちは水浴び。今まで潮風ばかりだったから、リフレッシュにはちょうどいい。
わたしも一浴びしてスッキリ!
ザバザバッ。
替えの服に着替えると、ピッカピカ!……とまではいかないけど、清潔感はかなり復活したと思う。
人間はわたしだけだけど、みんなにだらしない格好で接するわけにはいかないからね!
休憩を終え、浜辺の道に戻ったその時だった。
――ズバアァン!!
わたしのすぐ横を、凄まじい衝撃波が通り抜けた。
「みんなっ、大丈夫!?」
「なんともありません!」
「不意打ちとは……油断したな」
「見たことのない攻撃だな」
幸い、砂浜が抉れただけで、誰にも怪我はなかった。ほっ……
衝撃波の飛んできた方向を振り返ると、岩礁の上に一匹のエビが立っていた。
【テッポウエビ】
・テッポウエビ科。片方のハサミが非常に大きい、体長数cmのエビの総称。
・ハサミを高速で閉じることで衝撃波を発生させ、大きな音で威嚇や気絶を狙う。
・食用可。唐揚げやアヒージョで香ばしく美味。
カニペディアが反応した。え? エビでも反応するの? じゃあエビとも話せるってこと……?
エビフライが……もう……食べられないよぉ……それにしても、テッポウエビさんも美味しいのね……
「何やら取り留めのないことを考えているようだが、俺の“挑戦状”は届いたようだな?」
「えっと……さっきの衝撃波ですか? ちょっと物騒すぎません?」
「安心しろ。不意打ちで倒すような野暮な真似はしない。手の内を見せたうえで、それを超えてこそ意味がある」
「つまり……勝負したいと」
「そうだ。俺は強者を求めて旅をしている。そこに“凄まじいオーラ”を持つ者がいた。なら、戦うしかないだろう」
「ふざけるな。メグミ様と直接勝負など、私たちが許すわけがない!」
「俺の衝撃波に反応すらできなかった連中が、勝負になるのか?」
「確かに最初は察知できなかったが……お前の攻撃方法がわかれば、こちらも対処のしようがある」
「ほう……大きく出たな。ならば、“前座”としてお前と勝負してやろう」
「えーと……その、勝負って……やっぱり、避けられないんですか?」
「無駄だ。俺は強者と戦うために生きている。説得は意味をなさない」
「メグミ様、こういう輩が現れたときのために私たちがいるのです。どうかお任せください」
「ナイトくんがもしやられたら、俺が相手してやるよ」
「センシくん、私が負けた相手にあなたが勝てるわけがないでしょう。出番はありませんよ」
「そうだといいがな。まあ、メグミの防御は俺に任せろ」
「頑丈さだけは、あなたのほうが上ですからね」
「……メグミさん、なんかこの二匹だけの世界に入っちゃってますね。疎外感あるんですけど」
「住んでる世界観が違う感じするよね……」
「さて、話は済んだようだな。準備はいいか? 一発で終わるなよ?」
――ズバァァン!!
衝撃波がナイトくんに向かって放たれた!
ススッ。
ナイトくんは最小限の横移動で、それを華麗にかわす。
「わっ、ナイトくん凄い!」
「あいつは速さだけはあるからな」
「全然ついてけそうにない……」
なぜかワタルくんが自信を失っている。
「思ったよりやるじゃないか。では……もう少し本気を出そう!」
ズバ! ズバ! ズバァァン!
シュッ! シュツッ! シュッ!
――ガシッ!
ナイトくんが巧みに距離を詰め、ついにテッポウエビさんをハサミで捕らえた。
「チェックメイトです。連射に夢中になりすぎましたね」
「くっ……とどめを刺せ!」
「それには及びません。メグミ様は意思疎通できる相手への無益な殺生を好まれませんから」
「生き恥をさらせというのか……!」
「敗者なら、勝者の言葉に従うのが潔いかと」
「ぐぬぬ……青いカニよ。俺を生かしたことを後悔するなよ!」
「私の名はナイトくん。いつでも再戦は受け付けるぞ!」
テッポウエビさんは、悔しさをにじませながら海へと去っていった。
「なんか……すごいバトルものを見た気がするよ、ワタルくん」
「私は……全然ノれそうにありません」
「わたしもそう思う……」
突然の刺客に驚かされたけれど、何とか無事に旅の三日目は過ぎていくのであった。
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