20話:シオマネキ
シオマネキとてもかわいくて好きなカニです。
異世界生活十一日目
海水プールの工事は、ホリくんが加わったことで順調に進んでいるようだった。
……なんだか、わたしの想像よりもずっと大きなものを作っている気がするけど、たぶん気のせいだと思う。
「おーい、メグミ! これから海水の引き込みをやるんだけど、見ていかねぇか?」
オカちゃんが、問題発生以外でわたしのところに来るのは珍しい。これは期待していいに違いない。
「うん、見に行くよ!」
わたしはオカちゃんに付いて、海水プールの建築現場へ向かった。
海側にはきれいな水路が引かれていて、そこを大きな砂の山で塞いで海水の流入を防いでいる。
「よーし、みんな! メグミが来たぞ! 山を崩して、豪快に海水を注ぎ込め!」
海水が平気なコメちゃんズが、いっせいに砂を崩していく。……いつ見ても、数の力は正義だ。
ドババーッ!
一気に海水が流れ込み、美しく整備された円形のプールに注がれていく。
――ん? 円形? わたし、四角く絵を描いたはずだけど……
流れに乗って、カムリさんやモクさんまで流れ込んできた。
「これは……とてもエキサイティング!」
「これで、我らもいつでもメグミの服を仕立てられるな」
二匹とも、ご満悦のようだった。
「でも、この勢いだと、すぐにプールが溢れちゃうんじゃ……」
「排水路も作ってあるから、心配いらないよ」
ヤマトくんが自信たっぷりに答える。
たしかに、プールからは水路が伸びていて、低い位置にある海へと繋がっている。……みんな、賢すぎでは?
自然循環式になってるんだなあ……感心しきりで見つめていると。
「拙者は海水がダメなので泳げませんが、海水プール……うらやましいですぞ!」
土木作業をしていたと思しきケイちゃんも、完成したプールに感嘆の様子だった。
そのとき――
「メグミさん! すぐに巣穴へ戻ってください!」
ワタルくんから、鬼気迫る念話が飛んできた。
「えっ、どうしたの?」
「無数のカニの群れが、こちらに向かってきています。ハサミを上下に振って威嚇している様子です!」
「私たちに危害を加えるつもりかもしれません。メグミさんは安全な場所に!」
「でも、カニさんたちだし、わたしが話せばわかってくれるかも……!」
「いけません、危険です!」
ワタルくんの制止を振り切り、わたしは現場へ向かった。
たしかに、すごい数のカニさんたちがいる。
【シオマネキ】
・スナガニ科。オスは片方のハサミだけが大きく、甲幅3cmほど。
・干潟に巣穴を掘って暮らし、オスは大きなハサミを振って求愛する。その姿が「潮を招く」と言われる。
・一般には食用とされない。小さく、泥地に生息しているため。
あ、カニペディアだ。……「一般的には食べられない」って書いてあるけど、カニペディアの人は絶対試してる気がするな……
ふむふむ。オスはハサミを振って求愛、ね。
……うーん、あの動き、威嚇じゃなくて求愛じゃない?
「おー、出てきてくれたぞ! 我らの愛しい方が!」
「うおー、俺のハサミを見てくれー!」
「あなたのためなら、いつまでもハサミを振ります!」
「……これは、わたしに求愛してるってこと?」
「あのー、シオマネキさんたちは、どうしてこちらに?」
「あなたに愛を伝えるためです!」
「ここには、偉大なる愛のオーラを感じました!」
「ここに来て正解だった!」
「……ワタルくん、シオマネキさんたちは求愛しに来ただけみたい」
「まあ、メグミさんを見ればそうなるのも当然ですが……メグミさんには少し迷惑ですよね?」
「うーん、好きって言われるのは嬉しいけど、シオマネキさんたちの気持ちには応えられないかなあ」
「いえ、問題ありません! 僕たちは、この情熱が伝われば、それで満足です!」
「そ、そうなんだ……」
――そうして、わたしたちは夕暮れまで、シオマネキさんたちの求愛ダンスを見て過ごした。
「なんか、すごいカニさんたちだったね、ミコちゃん……」
「ほんと、いろんなカニさんがいるねぇ」
「……それにしても、シオマネキか……しお……塩!!」
「ミコちゃん! 塩を作ろう!」
「塩?」
「海水を乾燥させると、キラキラした白い粒ができるの! それが“塩”!」
「塩があれば、焼き魚も美味しくなるし、保存食も作れるし、いいことづくめだよ!」
「よくわかんないけど、みんなで頑張って“塩”ってのを作ってみる!」
そう言って、ミコちゃんはオカちゃんたちの元へ走っていった。
塩づくり――これは、一大プロジェクトになりそうな予感……!
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