2話:ミナミコメツキガニ
異世界生活一日目
波にさらわれて、謎の南国異世界に流れ着いてから――数時間。
私のまわりには、あいかわらず手のひらサイズのコメツキガニたちが、チョロチョロと集まってきていた。
みんな、好意的な念話を次々に送ってくる。
「きみ、かわいい~」
「おともだち~」
「すきすき~」
「……いや、ありがたいけど、このあとどうすればいいのか分からないんだよね……」
身一つでこの世界に放り込まれた私は、途方に暮れていた。
住む場所もなければ、食料もない。
飲み水もない。
海はあるけど、そこから水を飲んだら塩分で死ぬし。
しかも空を見上げれば、信じられないくらい巨大な鳥が飛んでるし。
……もう、無理では?
ぼんやりしていた私の前に、
ひときわ鮮やかな色をした、コメちゃんズよりもひと回り大きなカニが、ツツツッと歩いてきた。
【ミナミコメツキガニ】
・スナガニ科。体長1cmほどの小型カニ。
・集団で行動し、砂の中の有機物を食べる。
・**食用可。**素揚げや塩ゆでにすると香ばしくて美味。
私の「カニ鑑定スキル」が自動で発動したみたい。
どうやら、この子はコメちゃんズとは違う種類らしい。
……そして「食用可」の文字。
ちょっと待って? いや、無理無理無理! 食べないし!
そもそも調理器具もないし、生でカニ食べてお腹壊すのは嫌だし、
なにより……意思疎通できる相手を食べるのは気が引ける!
そんな私の動揺をよそに、そのカニからはっきりと念話が届いた。
「おちこまないで! きみは、ぼくたちが守るよ!」
……あれ、この子、ちょっとコメちゃんズより賢いかも?
「ここはとてもあぶないから、あっちの木陰に行こう!」
うん、やっぱり賢い。
はっきりと意思疎通できてる気がする。
私は彼に導かれるまま、海岸沿いの熱帯林の木陰に入った。
「わたし、メグミっていうの。これから、君のことミコちゃんって呼んでもいい?」
恐る恐る尋ねると――
「ミコちゃん! いい名前だね! ぼくは今日からミコちゃん! 君はメグミ!」
すごく嬉しそうに、ミコちゃん(命名)が応えてくれた。
「でね、ミコちゃん……その、私……おなかすいた……」
コメちゃんズはさっきから何度も「すな、たべる~?」って言ってくるけど、
人間は砂食べないからね!? 主食違うからね!?
「まかせて! 森の生き物が食べてるもの、持ってこさせるね!」
頼もしい!
ミコちゃんはチョキチョキとハサミを振って、コメちゃんズに何やら指示を出した。
その数分後――
「エッホ、エッホ……」
「はい、もってきた~」
「おいしそ~?」
たくさんのコメちゃんズが、どこからか赤い実を持って帰ってきた。
「……けっこう大きいなこれ……。南国の果実って、こんな感じなのかな……?」
食べてみないと分からないけど、
何も食べなければ餓死しちゃうわけで、ここはもう信じるしかない。
「ええい、ままよ!」
がぶっ。
「――あ、甘い!! すごいジューシー!! 美味しいよ、ミコちゃん!!」
「メグミがよろこんで、ぼくもうれしいよ!」
「メグミうれしいー! ぼくもうれしー!」
周囲のコメちゃんズからも喜びの念話の大合唱。
……うん、とりあえず今日は、飢え死にの危機は回避できた。
この世界は分からないことだらけだけど、
ミコちゃんがいれば、なんとかなるかもしれない。
私は小さく息を吐いて、ほっと胸をなでおろした。
ちょっとだけだけど――
この異世界で、生き延びられる希望が見えてきた気がした。
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