119話:大人の楽しみ
お酒は20歳になってから!
異世界生活百八十三日目
ケーキ作りは大成功だった。みんな喜んでくれたし。
でも、しばらくは甘いものはいいかな。昨日食べ過ぎちゃった。
ちょっと寝坊したのもあって今日は一人で朝ご飯かな、と考えながらホールに向かおうとしていると、
浜辺で勝さんや、ガザ爺、ベススさんがなにやら集まっていた。
(なんだろう?)と気になって、わたしは浜辺に向かい勝さんに声を掛けた。
「勝さん、なにやってるの?」
「お、メグミちゃんおはよう。今日は遅起きかい?今やっているのはね、アルコールを作ろうと思ってるんだ」
「アルコール?みりんも作れるかな?」
「みりん?まあ何とか努力すればできるんじゃないか?ただ俺たちが今から作ろうとしてるのは、ラム酒だがな」
「お酒!?ダメだよそんなの作ったら!」
「ふ、メグミちゃんここは異世界だ、勝手に酒を造っても大丈夫!」
「も、もし、みんながアルコール中毒になったらどうするの!」
「節度のある大人にしか振舞わないから大丈夫さ!ほら、俺もこう長いこと、酒を飲んでないから、この機会によろしく頼むよ~」
「うーん、みりんは欲しいし、そのためにはアルコールがないとダメなはずだから、仕方ないなあ」
「やったー!大好き!メグミちゃん!」
「海の王もはしゃぐ時があるんじゃなあ」
ガザ爺がなんだか不思議な眼差しで勝さんを見ていた。
「メグミの承認は得られたようだな。まあ承認を得る前から、虹色カビで、さとうきびの汁を発酵させてたわけだが」
「ベススさん!余計なことを言ってはいけない!」
勝さんが殻をピカピカと威嚇するように、発光させながら慌てている
「ベススさんのことだから、ちょっとした実験とか言われて巻き込まれたんだね……」
「虹色カビによる発酵のデータは沢山あった方がいいからな」
「はあ、それでもう発酵は進んでるの?」
「昨日の夜からやってるが、驚くほどの速度で発酵しているな。勝さんの意志力が強い影響を与えてるのかもしれない」
「それはもうラム酒になってるってこと?」
「メグミちゃん。ラム酒は蒸留酒だから、これはまだラム酒の素が出来ただけだよ」
「蒸留ってそんなのできる道具ないよ?」
「できる男は常に先のことを考えてるものなのさ、そろそろ届く気がするが」
「勝!蒸留器を作ってやったぞ!」
「おお、徹くん見事な形じゃないか!といっても、金属部分以外はヤマトくんやホリくんの仕事だと思うけど」
「なんだと!このぐるぐるの金属管が一番大事なところだから、俺の手柄でいいだろ!」
「そういう態度だと、メグミちゃんからの好感度が、下がると思うよ徹くん」
「む、むむ、ま、まあヤマトくんとホリくんの仕上げ技術はよかったな。うん」
「勝さんが蒸留器の形を教えたんですか?わたしはお酒造りは全然わからないし」
「ああ、ミコちゃんのイメージ伝達能力も借りて、全員で共有して、夜通し作ってもらった」
「みんなを夜通し働かせたんですか!?」
「き、きちんと確認は取ったよ!そんな強制的に働かせるなんてブラックなことはしないよ!徹くん意外には」
「俺にも配慮しろよ!!」
「いや、だって俺たちは、寝なくても365日24時間働けるじゃない」
「確かにそうだな」
「え?勝さん達寝なくて大丈夫なんですか?」
「全く何の問題もないよ」
「いつ寝たか忘れたな、ぼーっとすることはあるが」
「はあ、カニさんたちは夜の方が元気な子が多いですけど、勝さんと徹くんはまた別なんですねえ」
「まあ、俺たちの睡眠話はおいといて、発酵したサトウキビ汁を蒸留するぞ!ミコちゃん!コメちゃんズ!よろしく頼む!」
「はいはーい、じゃあみんなこの液体を温めて、金属の管は冷やしてね!」
蒸留機に入れられた汁は、ボコボコと蒸発して上部に気体として上がっていき、冷却管をで冷やされて液体に戻る。
蒸留器の受け皿にアルコールが濃くなった液体が注がれていく。
「おお!原酒が出来たぞ!どれどれ」
「勝さんそれはちょっと濃すぎるんじゃ……」
「ぬぬぬ、実に濃い!焼けるような感覚があるな!流石原酒!度数が高いぞ!」
「うまくできてるみたいですね」
「……全然酔えん」
「え!?」
「こんなアルコールの塊みたいなの飲んだら、酔うはずなのに……そもそも転生前の俺ならこんなの飲んだらぶっ倒れてるのに……全然酔えん」
「それはそのう……なんといったらいいか……」
「うん、酔えなくても風味はいいからこの後、樽に入れて熟成するけどね。……酔えないけどね……」
勝さんは明らかに気落ちしていた。
「酔えないくらいで、ショック受けすぎだろ勝」
「徹くんにはわからないだろうね……大人の楽しみってやつがさ……」
「今回ばかりは掛ける言葉がねえわ」
徹くんも、あまりの勝さんの気落ちっぷりに、いつもの勢いを削がれたようだった。
「じゃあ原酒はわしとベススさんで樽に入れて管理するからの」
「原酒はアルコール度数高いから、発酵させたお米と合わせて、みりんもついでに作れないかな?」
「虹色カビの力を使えば何とかなるかもしれないな、後で試しておこう」
「よろしくねベススさん!」
こうしてわたしたちは共同体初のアルコールを手にしたのであった。
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