アンケートです。ご協力をお願いします。
「はい。すみません。ちょっと待ってください」
不意に声がして男は目を覚ます。
そちらを見ると天使がいた。
「すみませんね。死んだばかりなのに。だけど、こっちも仕事なんで勘弁してください」
そうだ。
男は死んだはずなのだ。
それなのにどういうわけか生きている。
「あ、いや。生きているわけじゃないです。あなたは死んでます」
あぁ、やっぱり死んでいたか。
怪訝な顔をする男に向かって天使は微笑む。
「さて、ごめんなさいね。実は転生をする前に一つアンケートをとっていましてね」
「アンケート?」
「はい。ズバリ、あなたは来世も人間になりたいですか!? ってアンケートです」
そう聞いて男は黙り込む。
正直に言えば男は人並み以上に苦労の多い人生だった。
しかし、そんな中でも愛する妻と子供に恵まれ細やかながら幸せに生きたと思う。
そんな穏やかな気持ちに満たされたまま答えようとした男を遮って天使が言った。
「あっ、これは他意はないんですがね。あなたの奥様はずっと浮気していました」
「は?」
「本当です。本当」
その言葉に呆気に取られたものの実は男としても生前にそんな不審に思う点は何度かあったのだ。
「だけど妻は泣いていたぞ」
「そりゃ愛してなくても情はあるでしょ」
天使の言葉に男は気を悪くする。
なんで死んだ後にこんな気持ちにならなきゃいけないんだ。
「あとですね。あなたの息子さん、結構悪い事してますね」
「は?」
「本当です。本当。えっとですね、これ結構内容がエグイ感じで虐めの範疇超えて犯罪ですね」
そんな聞きたくもない話を天使は延々とし始めた。
家族だけに留まらず友人や同僚……とにかく自分に関わったあらゆる人間の汚い部分を天使は男へ告げた。
そして一通り語り終えると天使は言った。
「前置きが長くなっちゃいました。ごめんなさい。まぁ、とりあえずですね。今までの話は抜きにして、あなたは来世も人間になりたいですか!?」
男は舌打ちをして答えた。
「でっすよねぇ。分かりました。神様には来世は人間以外のものに変わるよう言っておきます」
天使の言葉を聞きながら男は気分悪そうな顔で去っていった。
そんな男の姿が完全に消えたのを確認してから天使は舌打ちをする。
「自分の罪を棚上げかい。本当に人間ってのは救えねえな」
神様が天使にアンケートを取らせていたのは事実だ。
しかし、余計なことまで話しているのは完全に天使の独断である。
「ほんっとうに人間ってクソだわ」
この場合、天使と人間のどちらが救い難いのかは判断に困るものである。