第10章「白昼堂々」【7】
叩き落としたのはドリムザンである。
ネミリオは呆気に取られた。
あの巨体にして機敏な動き。
「のっしのっしと歩いてたはずだよなあ…?」
一方、剣を叩き落とされたソムは、少々固まっていた後、いつものように喋り始める。
「申し訳ございません、頭領。命令を聞かずに好き勝手をしてしまって」
「ここで戦ってても意味がない。さっさとフガンを探しに行け」
ソムは素早く会釈をして、そそくさと裏口の方へ向かった。
その後からドリムザンも、のっしのっしと歩いていく。
もはやネミリオたちの方へは一瞥もくれずに。
「ネミリオ…」
「大丈夫か、ザップル?」
「いやあ、身体中浅くズタズタに斬られたよ。あの“頭領”が止めなかったら、今頃死んでたな」
「………」
「いや、それはハーネルに失礼か」
予想ではなく、実際に死んでしまったハーネルである。
「舐められたもんだな。俺たちに背を向けたまま、余裕で歩いていきやがった」
おそらくというかほぼ間違いなく、後ろから襲った所であっさり斬り捨てられるだろうとネミリオは呟いた。
「ネミリオ、何はともあれ、ハーネルをここから出してやろう」
「そうだな、その通りだ。俺も冷静さを欠いてるようだ」
同僚のハーネルを置き去りにするのは忍びない。
ところが、そうは問屋が卸さない。
「お客さんかい?」
印刷所の所長、リドベが外回りから帰ってきたのだ。
客かと思って愛想笑いをしながら近付いてきたのだが、どうも様子がおかしい事に気が付いた。
「ハーネルは諦める」
「うむ」
ネミリオとザップルは剣を鞘に収め、足早に入り口へ向かう。
「邪魔をした」
そう言ってリドベとは目も合わせずにすれ違う。
「な、何だよ…まったく」
そして、奥にまだ人が寝転がっている事に気が付いた。
「おい、あんた。そんな所で寝られちゃ困るんだけどね………」
ネミリオたちが印刷所から通りへ出た頃、中から悲鳴が聞こえてきた。
ネミリオは駆け足になり、ザップルも痛む身体を無理矢理走らせる。
「これから、どうする?」
ザップルが尋ねる。
「どうもこうも、完敗だからなぁ」
「…フガンを、捨てるか?」
角を曲がって細い路地へ入った所で、ネミリオは足を止める。
「あの頭領は凄い野郎だ。ざっくり言って騎士並だ。そんな奴が欲しがる、極秘の賞金首を俺は捨てられないな」
興味が尽きない、といった所である。
「だが、どのみち二人じゃ無理だ。だから、まずお前は病院へ行け」
「印刷所の奴が軍へ通報したら、治療どころじゃなくなるかもしれんぞ」
「なあに、どうせすぐには軍も動くまい。急いで傷口を塞いでもらって、すぐ逃げろ」
決して治療費を踏み倒せという意味ではないらしい。
「とにかくタムタムと合流しなきゃならん。アイツ、どこまで行ったんだか」
「エルスを引き入れるのに成功したって事じゃないのか?」
エルスを説得して仲間に出来たら、フガンの家族の元へ行けという手筈だったのだ。
「そういえば、そうだったか…」
「あっ!」
「な、何だ、驚かすなよ」
「エルスで思い出した」
「?」
「ゼオンはどうなったんだ…?」
「………ああー」
アミネとフガンは駐屯所を目指していた。
だが、途中でアミネが足を挫いてしまったのだ。
「運動不足が祟ったわ」
ウベキアに来てからは勉強ばかりで、身体を動かす事が億劫になっていた。
二人は木材置場の敷地内に潜り込み、積まれた木材の陰に隠れた。
「一旦、休みましょう。私もクタクタで倒れそうだったので」
「ありがとう、フガンさん」
二人は並んで腰を下ろした。
「礼を言うのは私のほうです。アミネさんとゼオンさんがいなかったら、私なんてモタモタしてしまって、とうの昔に捕まっていたでしょう」
そのゼオンが心配でもある。
「あの人たちに見覚えはないんですか?」
フガンは首を横に振る。
「知りません。きっと初対面だと思います」
「自分が捕まえられるって事に自覚がありそうですね」
でなければ“捕まっていたでしょう”とは言わないはずだ。
アミネは急かさずに、待った。
「心当たりがない、とは言えません」




