第10章「白昼堂々」【6】
ゼオンに挑んできた者の中には、正規兵だろうと思しき連中も幾人かいた。
ただし彼らはトミア全軍の正規兵の中でも、下っ端なのは間違いない。
騎士はおろか、実力上位者なども配置されていないだろう。
ウベキアという町の規模を考えれば、それは自然なことである。
ウベキア駐屯軍は、困難には数で対処するのだ。
その程度の実力なのだから、当然ゼオンは彼らをも退けた。
そんな正規兵など足元にも及ばぬほど、敵は強い。
アミネを守りたいという意思とは裏腹に、背中はついに奥の部屋の扉に密着していた。
扉はゼオンの重さに歪んでいる。
あまり頑丈な作りではなさそうだ。
「どけよ!」
クルーフは怒鳴りながら、ゼオンの腹に強烈な蹴りをお見舞いした。
それすらもゼオンは反応出来ず、踏ん張る事が出来なかった。
もちろん扉は持ち堪える事など出来ようはずもなく、瞬時に壁からはずれ、反対側の壁まで吹っ飛んでいった。
またゼオンも支えを失い、床に倒れた。
その際に頭を打った彼は、動かなくなった。
即座に部屋へ侵入したクルーフだったが、肝心のフガンがいない事に気が付いた。
「何だ、くそっ! どこへ消えやがった」
部屋を見渡すと、散乱した白紙の山の向こうに、もう一つの扉を見つける。
駆け寄ってその扉を開けたが、そこは印刷所の外であった。
ザップルは身体のあちこちに傷を負っている。
ソムに付けられたものだ。
彼はザップルへの攻めの中で、何度も突きを織り込んでくる。
撃ち込んでくる剣にはギリギリ反応出来るものの、ソムの凄まじく速い突きを、どうしても防げない。
ソムの突きはザップルの衣服や皮膚を掠める。
大きな出血には至らない。
ザップルには分かっている、狙えるはずなのに、身体の中央に撃ってこないのだ。
何故か、ソムが慎重派ならば、腕でも胴体でもその中央を狙うあまり自身も敵の正面によってしまう危険を避ける為。
何故か、ソムに人と違う趣味があるならば、簡単に仕留めようとはせず、敵をいたぶって苦しむ様を眺めて十分堪能してから仕留めたいから。
どちらにせよ。
実力の違いは歴然である。
身体のあちこちが痛み、戦意が削り取られていく。
殺すならさっさと殺してくれという考えが、頭の中で大きくなってきた。
しかし、まだすぐには殺してもらえないらしい。
あと少し、頭の中に残っているのは、まだ生きていられるという前向きな意識。
「ドリムザン!」
クルーフが呼んだ。
「どうした、フガンは?」
視線はネミリオへ向けたまま、クルーフに返事をする。
「裏口から逃げられた!」
チッ、とドリムザンは舌打ちをする。
「俺は外を探してみる!」
と、クルーフは頭領の返事も聞かぬまま、奥の部屋へ引き返していった。
「そうか、じゃあ仕方ないな」
するとドリムザンは剣を鞘に収めた。
「フガンがいなくなったというなら、ここで戦っている意味がない」
ネミリオはまだ剣を持っている。
ここで斬りかかれば、討てるのではないか。
しかし、ネミリオはやめた。
たとえ斬りかかったとしても、ドリムザンの反応の方が圧倒的に速いだろう。
返り討ちに遭うのが関の山だと判断したのだ。
「おおい、ソム! 俺たちもフガンを探しに行くぞ!」
まだ敵と相対しているソムに対し、ドリムザンが呼びかけた。
ところが、ソムはザップルに剣を向けたままで頭領の声にも返答がない。
聞こえてないとは思えない。
「どいつもこいつも、言う事を聞かねえなあ!」
また舌打ちをしつつ、ドリムザンはソムの元へ肩を怒らせながら歩いていく。
あっ、とネミリオもドリムザンの後を追う。
当然、頭領の声はソムの耳にも届いていた。
しかし、今辞めたくはなかった。
せっかくここまでやっておいて、中途半端に切り上げるのなんて、もったいない。
聞こえなかったフリをして、トドメを刺してやろうと。
ソムの目が妖しく光る。
彼の渾身の突きは、それが放たれた事すらザップルに気付かせなかった。
ネミリオも間に合わない。
切っ先がザップルの胸に達しようとした瞬間、ソムの剣は床に叩き落とされた。




