第10章「白昼堂々」【5】
こちらが動けば本当にウリケは斬ってくる、それだけが脳裏をよぎる。
「今は冗談抜きで時間がないから。またね、エルス」
そして瞬く間にエルスの脇をすり抜けて、ウリケは玄関の方へと消えていく。
エルスはただ唖然と見送ってしまった。
「何をボサッとしてるの⁈」
足の傷口を押さえながらタムタムが叫んだ。
「タムタムさん、大丈夫ですか…」
近寄ろうとするエルスを、彼女は手で制した。
「いいから、こんなので死んだりしないから。それより、アイツを追ってよ」
「でも…」
「フガンの息子まで殺されちゃうって!」
学校、とウリケは言っていた。
「学校って、どこですか?」
アミネの通っていた大学なら知っているが、それ以外の学校なと知らない。
「この家の西の通りを南へまっすぐ。茶色の大きな建物が見えてくるから、それが学校!」
タムタムの声にバシッと弾かれたように、エルスは踵を返してウリケの後を追った。
ニルマの笑顔が脳裏に浮かぶ。
彼は母親を失った。
マニーサの姿が焼き付いて離れない。
これ以上あんな光景は見たくない。
止めなければ、エルスは必死に駆けていった。
「ハーネル!」
ドリムザンの突きの勢いに、ハーネルの足が床から浮いた。
彼の背中まで貫いた刃は、凶々しい輝きを放つ。
ドリムザンはハーネルの身体に足をかけた。
そして足を伸ばして固定する。
ドリムザンは自らの剣をハーネルの身体から引き抜き、すぐさまネミリオの方へ振り返る。
ハーネルは何の抵抗もなく床に打ち付けられ、無惨に転がった。
その顔に生気は感じられない。
「残念だったな」
ドリムザンが口を開く。
「お前らもフガンを狙っているようだが、どうやら戦力差がありすぎるようだ」
フードを頭から被っている故に視界は遮られている。
左の壁の辺りで戦っているザップルも、奥にいるゼオンも、苦戦を強いられているようだ。
これほどまでの猛者揃いだとは考えていなかった。
その誤算のせいで、ハーネルを失った。
どうすれば良いのか。
「俺たちの目的も確かにフガンだが、あんたらとは意味合いがまるで違う」
「ふん、どう違うと?」
「あんたらはフガンを金儲けの“物”としか考えていないだろうが、俺たちはそんなあんたらからフガンを守る為にここに来たんだ」
「フガンを…守る?」
どういう事なのか真意を計りかねるドリムザンであった。
「俺たちは賞金稼ぎを敵だと思ってる。あんたらの好きにはさせない」
戦力が足りない。
せめて頭数だけでも。
タムタムはまだ戻らないのか。
「はあ、なるほどねえ」
「それはこの状況だって変わらない」
「いいねえ、見上げた心意気だ。そういう連中を見るのは、好きだぜ」
いざとなったらマントを脱ぎ捨てる事も厭わない。
自分の命が懸かっているというのに、身体の事など言ってられない。
「だがそういった心意気を抱えたまま死んでいく奴を見るのも、悪くないんだよな」
ゼオンは相変わらずクルーフに押されっぱなしであった。
剣を二本持っているから有利だとか、一本だから不利だとか、それはまるで通用しない戦況なのだ。
クルーフの一振りは、ゼオンの剣を二本とも弾き飛ばす。
その上でもう一度撃ち込んでくるのだから、ゼオンは下がるしかない。
物理的にも後退しているゼオンは、既に奥の部屋を背負う所まで来ていた。
奥にはアミネがいると思い込んでいる。
たとえ強敵でも、ここは死守せねばならないと。
しつこいなあ、とクルーフはクルーフでゼオンの事を嫌がっていた。
二刀流を相手にのも初めてである。
一本だけに気を取られていては、もう片方の剣にやられてしまう。
相手は自分よりも身体が大きく、筋肉もムキムキを誇っている。
どちらかと言えばドリムザン寄りだ。
腕力はかなり強く、こちらの速さにも対応してくる。
しかし感心してばかりもいられない。
コイツを退けて、奥の部屋にいるフガンを捕らえなくてはならないのだ。
ゼオンはこれまでザムニワ剣術道場で、何十人何百人を相手に試合をしてきた。
中には強いと思う相手も出てきたが、それでもゼオンは勝っていた。
ここまででの強さではない。




