第9章「偶然ではない」【5】
そのユーメシアが自分を見つめる表情に、ニマジレは少々おののいた。
「な、何でそんな顔してるの?」
「大人になったのね。皆んなの気持ちを考えるだなんて」
「や、やめてよ」
言い出しっぺのニマジレがヴェラへ行くのはもちろんの事、ユーメシアも既に決まっていた。
クルル•レアの次期国王が訪ねてきたとなれば、ヴェラ王妃も門前払いにはしないだろう。
兵士たちの意思はチルダスが、女性陣のはノシィが確認する事になった。
これはユーメシアの意見による。
「私やニマジレが聞いたら、強制参加を押し付けるようなものですからね」
全員の意見がまとまった。
兵士は全員、ヴェラ行きを希望した。
ヴェラ兵に殺された同僚の為にも、まだ旅を終わらせる訳にはいかないのだ。
顔にこそ出さないものの、ニマジレは助かったと心の中で安堵した。
極端な話、兵士無しで旅を続けるのは危険極まりない。
そもそもヴェラへ行くという計画が、頓挫してしまう所であった。
一方女性陣の方も、途中下車する者はいないとノシィから報告があった。
世話になったインバイの為に何かしたいという侍女、同僚が裏切った責任を取らなくてはと看護師、他に道案内や料理人も、ユーメシアやニマジレについていくと決めたようだ。
ホッテテに関しては強制参加であった。
医師がいないのは何かと困る。
その点、ホッテテは元よりヴェラへ行く気満々なので、全く問題ない。
だが逆に、ヴェラへ行きたくても行かせてもらえない者がいる。
諜報員のキューボである。
もちろん彼はごねるのだが、ユーメシアが強権を発動する。
「私たちの現状を本城へ伝えてもらう役目が必要なの。それが出来るのはあなただけよ、キューボ」
ユーメシアの危機を伝え、ニマジレ一行を急がせた立役者はキューボである。
「重要な任務だとは心得ております。ですが、このままただ帰るだけでは、何ともやりきれないのです」
気持ちは痛いほど分かる。
「ただ帰るだけだなんて、とんでもないわ」
ニマジレである。
「姉様が無事で、私と合流してヴェラへ向かった事を伝えるだけなら誰でも出来るけど。でも拡散はさせないで。ムリューシアが黒幕だって事も本城の一部の人に伝えるだけにして欲しいの」
無論、ムリューシアが警戒して逃亡するのを防ぐ為である。
「油断させておかないと、また何をしでかすか分かったものじゃないから」
料理人や給仕が自決し、兵士も30人ほどが倒れている。
戦力が大幅に減っているはずのムリューシアに、これ以上何か出来るとは思えないが、こちらも油断は禁物である。
「しっかり監視しておいてよね」
あとは第一王女と第三王女でひたすら懇願し、何とかキューボを折れさせた。
後ろ髪を引かれる思いのキューボであったが、ここでユーメシアたちと別れ、一路本城へと馬を走らせた。
それからユーメシア一行は一旦南へ下り、ある町へ入る。
そこでヴェラ国へ行く為の準備を整えた。
翌早朝、ユーメシアやニマジレを始めとする総勢20人の一団が、ヴェラ国へ向けて出発した。
「こんな経験をするなんて、人生って分からないものね」
馬車に揺られながら、ユーメシアがしみじみとそう呟いた。
他国の王妃に告げ口に行くとか、自分一人では思い付かなかっただろうとも。
「国王になる為の試練だと思えば、安いものでしょ」
ニマジレがにっこりと返してきた。
そう思わなければ、前に進めないかも。
ユーメシアは思う、自分とは型が違うが、妹もまた人の上に立つにふさわしい資質があるのではないかと。
「そういえば、私の話ばかりだったけど」
「………さあ、何の事?」
「あなたの方はどうだったの、その、ハシャルフ様の気持ちは射止めたのかしら?」
ニマジレの隣に座っているノシィは、急に下を向いた。
彼女がトミア国へ行ったのは、クルル•レアを代表して会合に出席する為だったが、個人的にはトミアの次期国王ハシャルフの妃になるのが目的だった。
「べ、別に諦めた訳じゃないから」
「あらやだ、フラれたのね、やっぱり」
耳まで真っ赤に染まるニマジレであった。




