第9章「偶然ではない」【4】
だったら尚の事、本城へ急いで戻ってムリューシアの真相を明らかにするべきではないかと誰もが思った。
「ヴェラ兵の証言もあります。わざわざ遠回りなどするべきではないのではありませんか?」
チルダスが口を挟んだ。
「何言ってるのよ」
ニマジレは呆れたように一笑に付す。
「会った事ないけど、ムリューシアってのは相当厚かましいオバさんなんでしょう?
だったら、こちらがとやかく言った所で簡単には罪を認めないはず。もしかしたら、他の人のせいにするかもね」
「なるほど、あの女にはヨイデボウロという片腕がいたな。そいつに全てをなすりつける、いかにもあり得る話だ」
キューボは納得した。
「だからね、そういう人には有無を言わせず力づくで押さえ込まなきゃ通用しないんだってば」
「一体、何をするつもりなの?」
ユーメシアも妹の真意を図りかねていた。
「ヴェラへ行くのよ」
得意満面で言い放つ。
全員の時が止まった。
「聞こえてる?」
皆の反応の悪さに、さすがにニマジレも不安になった。
「色々な思いで黙ってるのよ」
まずユーメシアが。
「どうして、今から、わざわざ、きっと全部あなたを否定しているわ」
「私が何をしたいのか、姉様も分からないのかしら?」
ユーメシアは大袈裟にため息をついた。
「ヴェラ国王に会うつもりなんでしょう」
ヴェラ国王チェスゲレイダ。
若かりし頃から女癖が悪く、それは国王の座に就いてからも治らず、側室を複数抱える時もあったという。
「それはいけませんぞ、ニマジレ様」
キューボの声は優しくなかった。
「チェスゲレイダ様がもしもこの件に登場されるとなったら、こちらもフリエダク様が動かない訳にはいきません。そんな事になったら、国同士の揉め事になりましょう」
ところが、ニマジレはにんまりと口元を緩めるのだ。
「残念でした、ハズれよ」
「…え?」
「確かに良い線いってるけど、それが大問題になるって事ぐらい、私にだって分かるわよ。だけど、姉様の命が狙われて、インバイや我が兵士が犠牲になってるの。許せるはずないでしょう!」
「じゃ、じゃあどうするの?」
もう一度ニマジレは得意満面の笑顔を皆に見せた。
ホッテテやノシィは、ちょっと怖かった。
「ムリューシアは側室、だったら正室のノトリネア様にご登場いただくしかない、と私は思ってるのよ!」
「側室に正室をぶつけようという事か」
キューボは空気が変わったような感覚を覚えた。
「どこの国でも、正室と側室って仲が悪いんでしょう? それも私は知ってるから」
確かに、なぜ妻がいるのに愛人を認めなくてはならないのか、正室が最も不満に思うところであろう。
「ノトリネア様に告げ口を…」
ユーメシアも否定する力が弱まった。
国王ではなく王妃だけなら、父王フリエダクを参加させなくても済むかもしれない。
「いや、これは案外妙案かも知れませんな。側室が他国で傍若無人な振る舞いをしているとしったら、正室は面白くないでしょうから」
「うむ、やってみる価値はありそうだ」
「やはり告げ口といえばニマジレ様」
「やられてばかりだったけど、これで相手にも痛い目を見せられるわ」
「インバイ様の仇が取れるのね」
全員が活気づいて、明るい声があちこちから飛び交った。
「これはあなたの才能ね。皆に力が沸いてきたみたい」
褒められたり前向きな意見が出て、ニマジレは満足げだった。
「………でも、“告げ口といえばニマジレ”って聞こえたんだけど、それは誰かしら?」
唯一の悪口を彼女は聞き漏らさなかった。
どうやら、首を垂れて絶対に目を合わせようとしないキューボが犯人らしい。
しかし誤魔化しきれないと悟り、調子に乗りました、とキューボは平謝りするに至る。
「さあ出発、と言いたい所だけれど、その前に確かめなくちゃいけない事があるの」
「確かめる、何を?」
「さっき姉様が自分で言ったじゃない。皆んな帰りたがっているって」
本城へ帰りたい人を無理矢理連れて行くつもりはないとニマジレは言った。
まさか妹からそんな言葉が飛び出そうとは、ユーメシアは思いもしなかった。




