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第9章「偶然ではない」【3】

「久しぶりね、姉様。再会するのはもっと後だと思ってたけど、こんなに早く会えて嬉しいわ」


「ニマ、ニマジレ…ああ、ああ…」


 顔を涙でくしゃくしゃにしたユーメシアは、まともに喋る事すらままならなかった。


「本当に、無事で良かった」


 しばらくした後身体を離したユーメシアは、俯いてこう言った。


「インバイが…」


「…えっ?」


「亡くなったの、私を守る為に」


 あの時の光景が彼女の脳裏に甦る。


「…嘘よ」


「本当なの」


「信じられないわ」


 彼女らの傍には、いつの間にか諜報員キューボが立っていた。


 彼もまた、インバイの訃報に耳を疑い、呆然としていた。


 ノシィや、他のニマジレとトミアから帰ってきた者たちも皆、悲しみに暮れた。


 チルダスやミデットたちは、無事では済んでいないてあろう、別荘でユーメシアの護衛にあたった同僚に思いを馳せる。




 ニマジレに姉の危機を知らせたのは、キューボであった。


 ムリューシアの企みを盗み聞きしたインバイから、急ぎニマジレを迎えに行けと言われたのだとか。


「ユーメシア様が奴らに追跡される未来まで予想していたかのようです。本当に彼女は、姫様たちの事ならとんでもない能力を発揮させる」


 チルダスたちがヴェラ兵の後始末をする間、ユーメシアとニマジレは焚き火で暖を取っていた。


 そこへキューボが現れたのだ。


「キューボとは同い年で、ホッテテや本城に勤める年寄りたちと、引退したら大きな家を借りてみんなで暮らそうと話していました。賑やかに過ごしながら、お互いの最期を看取ろうと」


 辺りは薄暗くなり、焚き火の炎がパチパチと燃えていた。


「全部、そのマクミン姉様の婚約者の母親の仕業って事なのね」


 そう呟くニマジレの表情は、怒りに歪んでいた。


「ユーメシア姉様を亡き者にして、自分の孫を確実にクルル•レアの王様にしようだなんて、身勝手にも程があるわ」


 その為に敵味方合わせて数十名の犠牲者が出ている。


「そうでしょ、姉様………」


 身体が温まってきたのか、妹に会えてホッとしたのか、ユーメシアはうつらうつらと揺れていた。


「侍女を呼んで参りましょう」


 キューボが離れていった。


 久しぶりの再会が喜びだけでなかったのはニマジレにとっても残念だが、ユーメシアの安心したような寝顔を見て、穏やかな気持ちを取り戻した。




 結果一人だけ生き残ったヴェラ兵は鎧を剥ぎ取られ、両手両足を縛られる。


 そして、チルダスからの厳しい尋問を受ける事となった。


「俺も正規兵の端くれだ、誰の命令かなんて、漏らすはずがないだろう」


 強気のヴェラ兵の耳に、チルダスが剣の刃をそっと当てる。


「私は右耳から落とすつもりだが、左耳からの方が良いなら、その希望に応えてやる。さあ、選べ」


 冗談でも脅しでもない事は、チルダスの目を見れば明らかであった。


 ミデットは一本の縄を持って来た。


「心配するな。痛みに耐える為に、この縄を噛ませてやるから」


 本気の人間が一人増えただけ。


 どうせ殺されるのに、そんな痛みを味わいたくない、ヴェラ兵は折れた。




 一夜明けた。


 ユーメシアは馬車の床の上だったが、泥のように眠っていた。


 彼女の侍女や看護師もゆったりとした朝を迎えていた。


 姉より先に起きていたニマジレは、チルダスから昨夜の報告を受けていた。


「ヴェラ兵はまだ生かしてありますが、ご命令とあらば、すぐにでも首を落とします」


 チルダスにとっても同僚の命を奪った憎き敵兵である、それも躊躇なく行えるであろう。




「目的地を変えるわ。本城には今すぐは帰らない」


 ユーメシアが起きてきた。


 ホッテテやキューボ、侍女や看護師の女性陣、兵士も全員集まったところでニマジレが宣言した。


 もちろん、全員が目を丸くした。


「ニマジレ」


 ユーメシアが諭すような声色で語る。


「また一人で勝手に決めたのね、誰の意見も聞かずに。みんな、本城へ帰りたいのよ」


 確かに、誰も第三王女に反論はしていないが、沈黙が物語っている。


「ムリューシアに、きつい罰を与えなくちゃいけないわ」


 しかしニマジレは同じ調子で、はっきりとそう告げた。

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