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第8章「ダナゴの失策」【6】

 休息だけなら、別に何処かへ移動する必要などない、ホッテテはそういう考えであった。


「それでは駄目なんですよ、ホッテテ先生。子供の頃から世話になっていたインバイを目の前で亡くして、そんな場所で心が休まるはずがないでしょう」


 だから本城ではなく、全く違う場所で、悲しい記憶が無い場所で過ごす必要があるとダナゴは言った。


「まあ、それも…一理あるかもしれんが」


 一体、何処へとホッテテは問いかけた。


「ユーメシア様を別荘へご案内します」


「別荘?」


 ホッテテが真っ先に思い浮かべたのは、現在マクミンとセンティオロが暮らしているガルボーデンの森にある別荘だ。


「いや、それはいけません」


 ダナゴは即座に否定した。


「先日分かったのですが、マクミン姫はインバイが亡くなった事をまだ知らないようなのです」


 それはフリエダクの一存による。


 妊娠中の愛娘に精神的苦痛を味わせたくないという、父親なりの気遣いだという。


「子供が産まれ、本城に帰ってから伝えてもいいのではないかと国王陛下は決断されたそうです」


 そこにはフリエダク自身もインバイの死因を知らないという事実があるから。


 インバイが高齢であった以上、老衰や病気で亡くなったのだろうと思い込んだフリエダクは、急いでマクミンに知らせる必要もないだろうと考えたのだ。


「だから、ユーメシア様とマクミン様を対面させるのは、何というか、不味いのです」


「ふむ、よく分かった。では、どこの別荘に行くのだ?」


「私が所有する別荘があります。ユーメシア様には、しばらくそこで療養していただこうと思います」


 もちろん、とダナゴは付け加えた。


「今回の件は実行犯の自殺で幕引きが済んだ、とは私も思っていません。まだ何かあるやも知れません」


 だから護衛は付けると。


「あまり目立たぬようにしないと、余計な連中を引き寄せてしまうかもしれない。兵の数は多過ぎず適度な人数で、と考えています」


 ちゃんと考えているならいいのではないかとホッテテも納得した。


 するとホッテテはふと何かを閃いたように目を見開き、そそくさとダナゴの前から姿を消した。




 本城から離れてダナゴの別荘で療養するという提案を、ユーメシアは何の抵抗もなく受け入れた。


 確かに本城にはインバイとの思い出があり過ぎて、すぐに辛くなってしまう。


 その点ダナゴの別荘へは今まで一度も行った事がないので、思い出に苦しめられる事は少なくなるかもしれない。




 ユーメシアが療養の為に別荘へ移動するという話は、もちろんムリューシアの耳にも入った。


 ヨイデボウロの画策により、本城に紛れ込ませていたヴェラ人がよい働きをしたという事である。


「これは朗報だわ! この絶好の機会、今度こそ成功させなさい! 分かってるわね、ヨイデボウロ?」


「御意に。必ずやムリューシア様に果報をお届けいたします」


「いい事、出し惜しみは不要よ! ありったけの戦力を注ぎ込みなさい!」




 それから二日後に、ユーメシアはダナゴの別荘へ向けて出発した。


 同行はホッテテと二名の看護師、三名の侍女、そして護衛の正規兵が二十名。


 片道八日間はかかるとの事で、遠いな、とはホッテテの感想である。


 道中、人々の目を引かないようにと、兵は鎧を纏わず市民と同じ格好になっていた。




 道中、ユーメシアはあまり口を開かなかった。


 馬車の窓から外を眺めるだけの日々が続いた。




 本城から南下した先に、小高い丘の上に建てられた赤茶色の建物が見えてきた。


 看護師や侍女たちによる別荘への見た目の印象は、あまり芳しくなかった。


 ユーメシアは文句の一つも漏らさなかった。


 馬車から大量の荷物が運び込まれ、準備が整った所でユーメシアが別荘に入った。


 食材などの補充は、近くに町があるそうで、そこで調達出来るのだという。


「建物は微妙だけど、窓からの眺めは良いわね」


 これが、女性陣の統一見解であった。


 料理人を連れて来なかったのは、もちろんあの事件の後で信用出来ないからである。


 故に、食事の用意は料理の腕に覚えのある侍女が担当する。

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