第8章「ダナゴの失策」【5】
クルル・レア軍内では意見が分かれ、ムリューシアを黒だと言う者もいれば、白だと言う者も。
はっきりしているのは、ユーメシアを毒殺しようとした料理人を紹介したのはムリューシアだという点である。
国王は不在、ユーメシア自身もインバイの死から立ち直れないでいた。
故に、本城の役人か軍部で結論を出さねばならない所だが、これがまた難しい。
愛人だ妾だとは言っても、ムリューシアはヴェラ国王の正式な側室である。
下手な扱いは大事に発展しかねない。
誰もその責任を負いたくない。
結果、審議の先延ばしとするしかなく、それまではムリューシア率いるヴェラ勢は、本城から出て市内の宿に泊まる事となった。
せめてもの対応という事で、首都ラスペリディで最も豪華な宿を使う事になったのだが、それでムリューシアが喜ぶはずもない。
部屋だけを見れば、本城の客室よりずっと広く使いやすいのだが。
「これが、ユーメシアを始末しての結果なら、何の文句もないのだけれどねえ」
イライラと部屋の中を歩き回るムリューシアは、次の手をとヨイデボウロを急かしまくる。
「まさか、打ち止めって訳じゃあないでしょうね?」
「ああ、いやあ、こんな事になろうとは思ってもみなくて、その、しばらくお時間をいただきたいと…」
「アレはどうなったのよ、アレは⁈」
「アレ………あ、この国の者になりすましているヴェラ人の事ですね、ええ、見つかる事は見つかったのですが、何しろ急な話でしたので、今の所一人だけでして。一人だけで動くのはどうにも限界がありまして、時間が必要だと思われます」
深い深いため息がムリューシアの口から漏れ続ける。
ムリューシアの失望を身体全体に浴びる事に疲れたヨイデボウロは、逃げるように宿から出て行くのであった。
インバイの葬儀の為に一度は自室から出てきたユーメシアであったが、それが終わると再び部屋に篭ってしまった。
本城では、そんな第一王女の精神状態を危惧する声も聞こえてくる。
「大きな声では言えんが、自ら命を絶ったりする危険も考えておいた方が良いのではないか」
「おいおい、滅多な事を…」
「しかし最近、おかしな事ばかり起きているではないか」
「ふむ。野盗に襲われたり、姫様が出席する催し物に国民が全然集まらなかったり、更に今回の毒殺未遂、いや実際に侍女が死んだのだから未遂ではないか」
「姫様にお怪我は無いが、心に受けた傷は深かろう。危険な状態にあってもおかしくないと思うが」
ユーメシアの事を深刻に心配しているのは彼らだけではなく、もちろんダナゴも心を痛めている。
このままではいけない、と。
ユーメシアは青白い顔で、自室のベッドに横たわっている。
その近くには侍女が一人だけ付き添っていた。
「インバイの葬儀に、父上は来なかったわ。どうしてかしら」
ユーメシアのそんな呟きに、侍女が答えられるはずもない。
「私やマクミンやニマジレが散々お世話になったのは、父上が一番よく知っているはずだわ。なのに、せめて、感謝の言葉を手紙にして届けてくれてもいいはずよ」
「姫様、どうか今はお休みください。あまり余計な事を考えずに」
フリエダクには事実が伏せられていた。
ユーメシアの身代わりに毒を口にして亡くなったなど、夢にも思っていないはずである。
そして、その事をユーメシアも知らされていなかったのだ。
「もう父上には初孫の事しか見えていないのね」
侍女も困り果てていた。
医師ホッテテがばたばたと大急ぎでダナゴの元へ駆けつけてきた。
「ユーメシア姫を本城から追い出すと聞いたぞ! 一体どういうつもりか⁈」
あまりの剣幕にダナゴは何歩か後退するしかなかった。
「待ちなさい、ホッテテ。追い出すだなんて馬鹿な事を。誰から聞いたか知りませんが、それは間違いです」
「しかし姫様の荷造りが始まっておるのは事実だろう! アレは一体何だ!」
「ユーメシア様には休息が必要です。それは医師のあなたならお分かりでしょう?」
「当たり前だ、その程度の事なら医者でなくとも分かる!」




