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第8章「ダナゴの失策」【1】

 ムリューシアはユーメシアの返事を我慢して待った。


 拒否されたら仕方がない、次の手を考えるしかないだろう。


 しかし、


「まあ、ヴェラの料理ですか! それは興味深いですね。是非、お願いします」


 ユーメシアは受け入れた。


 この時のムリューシアは興奮気味で、表情に出てしまっていなかったかと後で心配になった。


「必ずユーメシア様に喜んでいただけると思っております。本城の料理人の方とは、こちらで調整をしますのでご安心ください」


 これで、ほぼ成功は確実だとムリューシアはほくそ笑んだ。


 調整などはヨイデボウロに任せれば間違いなくやってくれる。




 明日の夕食でユーメシアにヴェラの料理を振る舞う事で、予定が組まれた。


「それで、肝心の物は用意出来ているのね?」


「はい、抜かりなく」


 ヨイデボウロは懐から油紙に包まれた、瓶のような物を取り出した。


「ヴェラ国が誇る最強の猛毒でございます。身体に入った途端に、その者の命を奪います。治療の余地などございません」


「あの小娘が死んでしまえばこっちのもの。国の規定に従い、次期国王はマクミン、そしてその次はセンティオロの子がこの国の王になるのよ」


 ただ、とヨイデボウロは表情を曇らせる。


「この件の責任を負わされるのは間違いないかと」


「当然、言い出しっぺの私には、重い罰が与えられる可能性があるわ」


「は、はあ…」


「如何なる理由があろうと、第一王女を死に至らしめたきっかけを作った私を、流石にお咎めなしにはしないでしょうから」


 あくまで私は何も知らなかったと無実を突き通すと、ムリューシアは言う。


「そうすればセンティオロが罪に問われる事もないでしょう。あの子は驚くでしょうけれど」


「本当に、センティオロ様には何もお伝えしなくてよろしいので?」


「当たり前よ。もしもあの子がこの事を知ったら、マクミンとの結婚を諦めてしまうかも知れないじゃない。優しいあの子を巻き込む事は絶対にしないわ」


 その為に自分がどのような罪に問われようと。


「とにかく今は、ヴェラの料理をユーメシアに食べさせる事に集中しなさい。失敗は言わされないわよ?」


 覚悟を決めたムリューシアの顔を、美しいと見惚れるヨイデボウロであった。




 クルル・レア国王フリエダクは、赤子を宿した愛娘を見舞う為、ガルボーデンの森へ出かけている。


 故に、ユーメシアは一人で食事を摂らなくてはならない。


 ちなみにムリューシアは別の部屋で食事を摂る、これはいつもの事である。


 ここで吉報を待つのだ。




 国王とその家族用の長方形の食卓の前には、ユーメシアがぽつんと座っている。


 ヴェラの料理が興味深いなどとは言ったが、実際の所はどうでも良かった。


 可愛い妹マクミンの婚約者センティオロの母親の顔を立てた、ただそれだけの事なのだ。


 幾つか料理が運ばれてくるだろう。


 それらを一口ずつ摘んで、“美味しい″と呟けば良いのだ。


 調理場から繋がる扉が開けられた。


 思った通り、これでもかと何枚もの皿が食事の上に並べられていく。


 到底一人で食べ切れる量ではない。


 そういえば、料理を運んでいる給仕たちも見知らぬ顔ばかりである、ユーメシアは何となくそう思った。


 本城の侍女たちの姿もない。


 料理を作るだけでなく、運び、そして後片付けまでヴェラ国が仕切るつもりなのだろう、それくらいにしか考えていなかった。


 とはいえ、出来立ての料理からは温かい湯気が上り、食欲をそそる香りがユーメシアの鼻を刺激した。


 異国の料理も悪くなさそうだと、ユーメシアは目の前の皿から手を付けようと、ナイフとフォークを手にした。


 給仕たちも離れた所から見守っている。




 その時だった。


 突然インバイが部屋に入ってきた。


「あら、どうしたの?」


「お待ち下さい姫様。申し訳ありません、恒例の味見をするのを失念しておりました」


「味見? 恒例の?」


 ふと、給仕たちが慌て出した。


「待て、侍女。そんな事は聞いてないぞ」


 だが給仕の言葉など無視して、インバイはユーメシアの隣までやってきた。


 そして、彼女の目の前の皿に乗っている料理を手掴みして、自分の口へ運んだのだ。

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