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第7章「フリエダクの葛藤」【8】

 僅かなドタバタはあったものの、本城レジョメコウはいつもの平穏を取り戻していた。


 何しろ国王の機嫌が良い。


 彼一人がにこやかでいるだけで、城内が隅から隅まで穏やかな空気に包まれるのだ。


 役人も兵士も城内で働く者も全てが、肩から力の抜けた様子である。


 とはいえ公務は本日も執り行われる。


 マクミンが抜けた分、その数は大幅に減らされる事となった。


 ユーメシアの日程は変わらずびっしりと埋まっているのだが、変わったのはフリエダクのものである。


 その量が半分以下になっていた。


 彼はマクミンとセンティオロの新居を訪ねる計画を立てていたのだ。


 それも一回二回どころではなく、定期的に何度も通うつもりらしい。


 よほど“初孫″の事が気にかかるのだろう。


 産まれるまでは、まだずいぶんと日数がかかるというのに。


 国王というよりは、おじいちゃんか。




 そうなると、他の王族の者を頼りにしたい所だが、彼らは彼らで忙しい。


 結局、ユーメシアが一人で粛々と公務をこなさなくてはならない。


 日程はその多くが先送りになり、若しくは王族の参加を中止にせざるを得ない。


 その憂き目に遭った者たちの不満が溜まり、苦情が寄せられる。


 申し訳ないと、思う。




「敵襲!」


 突然だった為ユーメシアには聞き取れなかったが、兵の声がただならぬ事態を理解させた。


 馬車の中が暗くなる。


 窓を兵が盾で塞いだのだ。


 向かいに座っていた侍女が、慌ててユーメシアの方へ近寄ってくる。


「姫様、身を低く」


 侍女に頭と背中を押さえられ、ユーメシアは床に膝をついた。


 矢が馬車の壁を貫かないとは限らない。


 それでも、こんな事は一度も経験が無い彼女にとっては、驚きでしかなかった。


 外から怒号や金属のぶつかり合う音が幾度となく響いてくる。


 前方からも聞こえてくるという事は、進路を塞がれて馬車も動けない。


 顔を床に埋め、後頭部を両手で防御し、ユーメシアは身体を小さく丸めていた。


 終わるのを待つしかない。




 騒音は止んだが、ユーメシアはうずくまったままだった。


「姫様、もう大丈夫ですよ」


 侍女に促され、ようやく彼女は頭を上げた。


 知らぬ間に馬車の扉が開けられ、外から兵士が顔を覗かせていた。


「姫様、ご無事で?」


「………え、あ、はい…」


 侍女が心配そうに、顔面蒼白になっているユーメシアの様子を伺っていた。


「!…平気です。外の皆は大丈夫ですか?」


「………?」


「…姫様は、全員が無事かと案じておられます」


「恐れ入ります! 数人の負傷者は出ましたが、全員存命しております!」


 普段のような大きさの声を出していない事に、ユーメシア本人が気付いていなかったようだ。


 賊は皮の鎧を纏い、道沿いの丘の上から襲撃してきたらしい。


 だがその数が多かった。


 護衛でいた兵士の三、四倍の人数の郎党が大挙して押し寄せてきたのだ。


 おかげで現場は騒然としたが、第一王女の護衛は訓練に訓練を重ねた上級の兵士ばかりである。


 焦らす怯まず、着実に敵の数を減らしていき、遂にはその大半を斬り捨てたのだ。


 数名は取り逃したが、深追いをする必要などなく、すぐにでもここからの離脱を必要とした。


 道に倒れている賊の遺体を脇に投げ捨て、ユーメシアの乗る馬車を急いで出発させた。


「姫様、お水を飲まれますか?」


「なんて事はないわ。私はいつも通りだから」


 そう言いながらも、ユーメシアは椅子ではなく床に座ったままでいる。


 動揺している第一王女を初めて目にした侍女であった。




 本城へ戻ったユーメシアを出迎えたのは、インバイとホッテテである。


「姫様、お怪我は⁈」


「何奴じゃ、姫様を狙うとは⁈」


 取り乱した様子の二人を緩やかに手で制し、ユーメシアは馬車から降りた。


「それより、公務の予定が狂ってしまったわ。父上に報告しておかないと」


「何をおっしゃいます! そんなものは後でよろしい!」


「その通り、お休みなさい! どうせすぐに王様が青い顔をして見舞いに来られるでしょうから!」




 ところが、フリエダクはユーメシアの見舞いには訪れなかった。


「なに、ユーメシアの事だ。たかだかその程度で落ち込んだりなどしとらんじゃろうて」

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