第7章「フリエダクの葛藤」【6】
「いいえ、陛下。娘を持つ父親とは、得てして同じ気持ちになると聞きます。手塩にかけて育てた愛娘が、どこの馬の骨とも分からぬ男に奪われようとなったら、心を平静に保つのは難しいのだと。ですから、どうかお気になされないように、お願い致します」
「う、うむ…」
クルル・レア国の王も形無しである。
「これで両者落ち着いて話が出来るというものですが、それでも今回の突然の訪問は、国王や私だけでなく、マクミンすらも困惑させるものでした」
流石に父王が不憫だと、ユーメシアがムリューシア親子のやり方に異を唱える。
「申し訳ありませんでした」
センティオロは静かに頭を下げた。
「陛下に対しての今回の私たちの行動は、失礼極まりないものでした。事前の連絡もなく姿を現せば皆さんが驚かれる、それを二の次にしてしまったのは、自分本位であったという他ありません」
「その通りです。本来なら門前払いも当然の行動ですよ」
「姉様、彼は彼なりに覚悟を決めてここへ来たのです。彼のお母様も同じだと思われます」
「でしたら尚の事、きちんと手順を踏んでもらいたかったと私は思います。やっていい事とそうでない事の区別を…」
「もうよい、ユーメシアよ」
このまま激しく断罪に及びそうな第一王女を止めたのは、フリエダクであった。
「そうですか? 分かりました」
ユーメシアはあっさりと引き下がる。
はっ、とした表情でマクミンは姉の顔を見上げた。
「落ち着いて話をしようではないか。そういう方が子供にも良いのだろうて」
マクミンとセンティオロは、互いの顔を見合わせた。
みるみる二人の顔が上気していく。
そこでフリエダクは、二人の馴れ初めをあらためて聞く事にした。
玉座では困惑が過ぎて、あまり話が入ってこなかったようなのだ。
そこからはユーメシアも聞き役に徹した。
穏やかに朗らかに、彼らは日が暮れるまでゆっくりと話を続けた。
翌日、ユーメシアは諜報員のキューボを探していた。
軍の上層部に尋ねても、彼の所在が不明だとの答えしか返ってこなかった。
「あのおいぼれジジイの事ですから、どこかでサボっているんじゃないでしょうかねえ」
インバイにも聞いてみたが、無駄だった。
仕方なくユーメシアは、他の諜報員に相談してみた。
センティオロの国籍を極秘に変えた者を突き止めて欲しいという願いであった。
決してセンティオロに難癖をつけようと考えている訳ではない。
問題なのは、そのように法で許可されていない事をやってしまう者がいる事だとユーメシアは思っていた。
あくまでこれはこれ、という事である。
だからこの件を調査する事に関しては、マクミンやセンティオロはもちろん、父王にもムリューシアにも秘密であった。
おそらくこんな真似が出来るのは、軍か役人かのどちらかだろう。
だからこそ、尚更極秘任務なのだ。
第一王女の命を受け、軍の諜報部は秘密裏にほぼ総力を上げて解決の為に奔走した。
そのおかげで、割と日数もかからぬうちに容疑者の確保に至る事が出来た。
その名はオボメという、下端の若い役人であった。
取り調べを受けた際、オボメは終始落ち着きが無かったようだ。
「確かに私はヴェラ国から礼金を受け取って、センティオロをクルル・レア国籍に変えました。でもこれって、そんなに重い罪になるのでしょうか?」
国家への背信行為だと説明をうけると、オボメの声は更に上擦った。
「だ、だってヴェラ国王の血を引く者をクルル・レア人にしようっていうんですよ、もしもこれがバレたら大騒ぎになるじゃないですか! だからコッソリとやったんです!」
そもそも罪の意識すら無かったという事だろうか。
「それにこんなの、私だけじゃありません。他の役人だって小遣い稼ぎにやってますよ。センティオロどころじゃなく、もっと多くのヴェラ人が国内に紛れてます。だから、そいつらもちゃんと捕まえてください! 私だけなんて不公平すぎます!」
センティオロの事だけ判明すれば良かったのだが、オボメの自供が記された報告書に目を通したユーメシアは、なんたる腐敗かと頭を抱えた。




