第7章「フリエダクの葛藤」【4】
愛娘の言葉にも、父王は不機嫌な表情を崩さなかった。
「お前は、どうなのだ? あの二人の事は賛成なのか?」
やれやれと半ば呆れたが、ここで放り出しては元も子もない。
「私も始めは乗り気じゃありませんでした。一般兵と逢引きだなんて、第二王女としての自覚に欠けるのではないかって。男は自尊心が無駄に高いから、身分の違いに我慢出来なくなるに決まってるって」
父王は男なのだが、ユーメシアは敢えて気にしなかった。
「もっと驚いたのは、もちろんマクミンが妊娠した事です。ホッテテから受胎の仕組みは聞かされているはずなのに、何も考えてなかったとしか言いようがありません」
医師ホッテテがそんな事まで娘たちに教えていたとは、フリエダクは何も知らなかった。
「血の気が引きそうになったのは、センティオロの母親がヴェラ王の側室だって事です。一度は混乱して頭の働きが止まってしまいました」
センティオロがヴェラ国王とムリューシアの間に生まれたのであれば、彼にはヴェラ王族の血が脈々と流れている事になる。
例え側室の子といえど。
「まさかヴェラとそのような関係になるのかなんて、本城に着くまで余計な事で頭が一杯になったりもしたんです」
「確かに、その通りだな。私はそんな事など考える余裕など無かったよ」
遺体をどう処理するかは考えていたくせに。
「ですが父上、もっと簡単に考えましょう。余計な事は限りなく削ぎ落として」
「むむ?」
「マクミンが子宝を授かったのです」
「そ、それは…だから…」
どういった環境で、というのがフリエダクが激昂した重要な点なのだが。
「初孫ですのよ、父上」
「は…」
長女のユーメシアがまず最初に子供を産む、フリエダクはそれが当たり前だと思っていた。
しかしまだユーメシアは独身であり、更には近いうちに自分の跡を継いでクルル・レアの女王になるのだ。
そうなると、子供は一体いつになるやらと、長く待たされる事も覚悟していた。
「自分の血を分けた孫を抱きたいとは思われないのですか?」
「そんな事、思わない訳がなかろう…」
「センティオロに腹が立っているのは、私も同じです」
気に入らないとまで思っている。
「ですが父上、マクミンに元気な子を産んでもらう為には、気持ちの安らぎが最も必要です。ですから今すぐセンティオロをどうこうせずに、寛容に振る舞ってみてはいかがでしょうか」
「…孫の為か…」
「ええ、孫から“おじいちゃん″なんて呼ばれたら、どんなお気持ちがするのでしょうね」
「ユーメシアは長女として、第一王女として、次期国王として、その役目を十分過ぎるほどに務め上げているわね」
「本当に、ユーメシアは国民からも慕われて、やがて望まれて女王になるのでしょうな」
「無事に行けば、ね」
「…はて?」
「あくまで今のままなら、ユーメシアが王になり、次の継承権はセンティオロの子、つまり私の孫に与えられるわ」
「この国の法律では、そうですね」
「だけど、ユーメシアに子供が産まれたらどうなるかしら?」
「センティオロ様のお子様より、ユーメシアの子が継承権の上位に来ます…」
ムリューシアが口を真一文字に閉じた。
この沈黙をヨイデボウロは非常に恐ろしく感じたが、無理矢理口を挟む事も出来なかった。
「むしろ、ユーメシアさえいなければ、フリエダクの次の王はセンティオロの子になるって事よね」
ヨイデボウロはムリューシアの目を見たが、それは冗談を言っているようなものではなかった。
彼の全身に寒気が走った。
「ムリューシア様は初めから、そのおつもりでございましたか」
「当たり前でしょ。ユーメシアが退くまで呑気に構えてられる訳ないじゃない」
しかもユーメシアに子供が出来れば、その可能性はほぼ無くなると言っていい。
ヨイデボウロもユーメシアがいなければ、と想像した事がなくは無い。
ただそれは現実的では無いと思い、もう少し穏便に事を進めるのだろうと考えていた。
例えば、ユーメシアに結婚をさせないとか、妊娠させないようにするとか、など。




