第7章「フリエダクの葛藤」【1】
そうは言っても実際に父王にそのような存在がいたら、心理的にはどうなるか分からないのだが。
「急に家へ帰れなくなった私ですが、家族に会えないといった訳ではなく、国王の配慮により、家族の方が本城へ来て面会を果たす事が出来ました」
刑務所に囚人の家族が来て面会するというのは聞いた事がある。
それと同じではないかと思われた。
「私は国王にとても大切にしていただきました。広くて綺麗なお部屋に住まわせてもらい、欲しい物は何でも手に入れていただいたのですから」
そこでユーメシアは気が付いた。
この人、自分の話しかしてない!
「何より一番欲しかった子供まで授けてくださったのです」
それがセンティオロだと彼女は言った。
「ただ、私は納得して今の立場にいるのですが、息子には選ぶ権利もありません。側室の息子という烙印を推されているのです。この子は何も悪い事をしていないのに、好奇な目に晒される。それだけは不憫に思いました」
しかし不可解な事に、彼はクルル・レアの鎧を着ているのだ。
「そこで私は考えました。息子の事を誰も知らない場所なら、きっとのびのび生きていけるだろうと。だから私は、息子をこの国の人間にしたんです」
かなり間を端折っているし、そんな事は簡単に出来るはずもない。
しかもヴェラ国王の側室の息子ともなれば、むしろ身元がはっきりし過ぎていて、不可能に近いのではないか。
「素性を隠してこの国の人間にさせるのは、どうにも私一人の力では叶いません。ですが捨てる神あれば拾う神あり、こちらで協力してくれる方を得たのです」
それはもう、何かの罪を犯していると告白しているに等しい。
「その方のおかげで、息子は晴れてクルル・レア人として、国軍の正規兵になる事が出来たのです」
他国の人間にさせるだけではなく、その国の正規軍に入隊させるなど、どう考えてもその辺の素人や民間人には出来ないと思われた。
「ここまで喋っておいて申し訳ないのですが、その方のお名前を申し上げる訳には参りません。その方の名誉に関わります故」
こんな事がこの先も罷り通ってはならない、即刻調べさせなくては。
「さて、長々と続けてしまいましたが、そろそろ本題に入らせていただきます。もちろん、マクミン姫と我が子センティオロの話でございます」
するとユーメシアは片手を挙げた。
「ここから先は、マクミンとセンティオロから話を伺いたいと存じます」
これ以上、この側室に好き勝手喋られるのは、あまり気持ちの良いものではない。
「父上も、よろしいですね?」
「あっ、うむ、二人の話なら当人に語らせるのが一番だろうな」
急に話を振られたフリエダクだったが、やや焦りつつもユーメシアの味方をする事が出来た。
こちらの意図はムリューシアに伝わったはずだとユーメシアも理解する。
彼女の口が若干への字に曲がっているのがその証拠かと。
この期に及んでまだ喋るつもりだったのかと、ユーメシアは空恐ろしくなる。
それからはマクミンとセンティオロが、馴れ初めから話し始めた。
国王を前にした緊張からか、センティオロは上手く喋る事が出来ない。
そこをマクミンが言葉を足して、あくまでセンティオロが話すように手助けをするのだ。
これならムリューシアの長い語りより、よっぽど好感が持てるというものだ。
全てを聞き終えたフリエダクは、玉座に深く身体を預けていた。
さて、ここからは国王の順番になる。
どんな質問が飛び出すか、マクミンやセンティオロだけではなく、ユーメシアも身構えていた。
「ユーメシアよ」
「私⁈」
「お前はずっと前から二人の事を知っておったのか?」
ふむ、なるほど。
自分だけ知らされていなかった事に嫉妬しているのかも知れない。
「もちろんです」
ユーメシアは胸を張る。
「私はクルル・レアの次期国王になると決意を固めております。その私が、妹の恋の話程度の情報など、造作もなく耳に入れられなくて如何いたしましょう?」
これからはより多くの情報を入手し、精査する事も国王に求められる時代だとユーメシアは力強く説いた。




