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第6章「道場を守れ」【8】

 素直に喜んでくれるなどとは、かなり分の悪い期待である。


「私は生みたいの、センティオロの子を。例えお父様に反対されて、この国を追放される事になっても」


「部屋に戻りなさい」


 マクミンが動かないので、ユーメシアはインバイに顎で命令する。


 そそくさとインバイが駆け寄り、マクミンに立ち上がるよう促した。


 もはや聞く耳を持たない姉の様子に、マクミンも諦めて部屋を後にするしかなかった。


「こんな事が、我が本城でも起きるなんて…」


 ユーメシアは天井を仰ぎ見る。


 しかし、これはまだ始まったばかり。


 この後、ユーメシアどころか本城の誰もが予想だにしなかった方向へ話が進んでいく事となる。




 クルル・レア国第一王女ユーメシアの命を受け、諜報員キューボは本城のいずれも腕の立つ正規兵十名を引き連れ、第二王女マクミンの恋人センティオロの所属する部隊の駐屯所へと向かった。


 彼を国王フリエダクの前へ突き出す為である。


 予告なく現れた本城からの使者に、部隊長も何事かとただならぬ空気を感じ取った。


 ところが、キューボの目的がセンティオロである事を知ると、部隊長はますます冷や汗をかく格好となった。


「奴なら、今は休暇を取っておりまして…」


「休暇、いつからだ?」


 部隊長は頭をかいた。


「ええと、いつからだったか、おそらく二、三日前からかと…」


「この時機に休暇などと、偶然とは思えん。奴め、連行されると分かっていたか」


「れ、連行? 今、連行とおっしゃいましたか? 一体、センティオロは何をやらかしたのでしょうか?」


 部隊長は必死にすがりつく。


 もしも国家に背く罪でも犯したとあれば、管理する部隊長の責任問題にも発展しかねないから。


「このまま行方をくらましたとあれば、奴はとんでもない置き土産をしていった事になるのだ」


 赤ん坊に対して言い方はアレだが、万一センティオロが逃亡を図ったというのなら、とんだクズ男である。


 恋人が妊娠したからというだけでなく、その恋人がクルル・レア国の第二王女なのだから、恐らくなって逃げたという事になる。


「許せん、センティオロめ! かくなる上は本城の諜報部の全てを注ぎ込んで地の果てまでも探し出し、責任を取らせてやるわ!」


 三人の王女が小さい頃から大切に見守ってきたキューボにすれば、当然飲み込めるはずもない。


 憤慨するキューボの元へ、彼を追いかけて本城からもう一人の諜報員が現れた。


「キューボ殿、即刻本城へ戻られよ!」


「こんな時に、何事か?」


「大変なのだ、センティオロが本城へ現れたのだ!」


「センティオロが、そんな…」


「しかも大変な事に、奴は一人ではない」


「何だ、一人では心細いから付き添いと一緒という訳か。誰だ、親か、親類縁者か、友人か、まさか別の恋人でも連れて参ったのではあるまいな?」


 例えもう一人恋人がいたとしても、わざわざ本城へ連れてくるとは思えないが。


「その通り、親だ」


「親だと? ………そうか、親を連れて挨拶に来たというのか。ま、まあ、それなら奴はまともな男かもしれんな」


 今までの憤慨を丸々引っ込めるのは難儀である。


「それが、まともではないのだ! 先程から大変だと言っているだろう!」


 照れ隠しなのか、キューボの苛立ちは同僚へと向けられた。


「だから、何が大変なのだ? ちまちま小出しにしてないで、さっさと言え!」


「ヴェラの正規兵も一緒なのだ!」


「ヴェラの正規兵だと? お前は一体何の話をしているのだ?」


 センティオロはクルル・レアの正規兵だが、ヴェラ国の正規兵と共に現れたとはどういう事か、キューボは首を傾げた。


「それだけじゃない、最も驚くべきは奴の母親だ。彼女はヴェラ国王の側室なのだ!」




 本城レジョメコウから真っ直ぐ伸びる、首都最大の大通りにの沿道には人だかりが出来ていた。


 ここを、大勢のヴェラ兵が隊列を成して通り過ぎていったからである。


 その中心には、色目は地味だが大きな馬車がいて、ヴェラ兵はその馬車を守るように進んで行った。


 どんなお偉い客人が訪れたのかと、民衆は興味津々であった。

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