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第6章「道場を守れ」【6】

「ゼオンって奴の方は分からないが、エルスがザップルに勝てるような腕前だとは思わなかったけどなあ」


 実際に自分の目で確かめたのだからこそ、ザップルが負けた事にマントの男は納得がいかなかった。


 だが、ザップルの印象は違っていた。


「お前と会ってからの短期間で、実力を上げたんじゃないだろうか」


「どうやってだよ?」


「あいつ、あの道場で毎日試合をやってたんだろ。聞いた話じゃ、中には正規兵も混じってたらしいぜ」


 最初は舐めた態度の正規兵も、エルスやゼオンに負けた為に本気を出した。


 それでも二人に退けられたのだ。


「それで腕を上げたってのか、へえ」


 マントの男は、何故だか嬉しそうだ。


 それだけじゃない、ザップルは呟いた。


「大将と同じ技を使いやがった」


「なんだと⁈」


「それは間違いないのか?」


 奥にいたもう一人が、椅子から立ち上がって三人の元へ歩み寄ってきた。


「あの連撃の速さは尋常じゃなかった。思わず大将の顔がチラついたよ」


 マントの男はタムタムの方へ顔を向けた。


「お前もそう思ったか?」


「あー、言われてみれば。急にとんでもなく速くなったなあとは思ったけど」


 その後エルスが力を失って片膝をついた事もザップルは伝えた。


「それは、とんだ拾い物だな」


 奥から来た男は明るい声でそう言った。


「何とか味方に出来れば助かる」


 マントの男も静かに頷いた。


「だったらさ、ゼオンも誘った方がいいよ! あいつも私が蹴ってたら、怒って急に強くなったから」


「使えるなら数は多い方がいい」


「俺たちだけで十分だろ、数は同じ何だし。大体エルスはステムに大怪我負わせた奴だぞ、本来なら真っ先に倒さなきゃならないじゃないのか⁈」


 ザップルは一人反対らしい。


「気持ちは分かるが、それは今回の件が終わってからでもいいんじゃないのか。まずは“無情の犬”に勝つ事が先決だ」


 マントの男は、自らが剣を交えた頭領の実力が相当高いと見込んでいる。


「後の連中も、得体が知れん。一人あのガキだって只者じゃあないのは確かだ。技を何発も撃ってきやがった」


 残りの二人についてはまるで情報がないのだから、念には念を入れなくてはならないと。


 ザップルは黙っていた。


「だけどどうやって説得すんのよ?」


「何も膝をつき合わせてああだこうだと説き伏せる必要はないさ。無理にでも引き摺り込むまでだ」


「いいだろう、それはネミリオに任せる」


 ネミリオはフードを頭から被り直した。


 そして近くの壁にもたれかかって両目を閉じる。


 タムタムやザップルも、めいめい身体を休めていた。


 来たる決戦の時に備えて。










 クルル・レア国、本城レジョメコウ。


 第一王女ユーメシアは、朝から外出の支度にバタバタしている。


 周りの侍女が数人で手伝っているが、衣装や荷物も多くて簡単には終わらない様子だ。


 一日の予定は公務でビッシリと埋まっているので、のんびりしている暇は無いのだろう。


 そこへ、侍女の長インバイがそろそろと彼女の部屋へ入ってきた。


 その態度を横目で盗み見たユーメシアは、不機嫌さを増した。


「マクミンはなんだって言ってるの?」


「そうですわねえ、どうも食欲が無いし吐き気もするとかで。調子が良くなったら公務に参加されるとおっしゃっておられます」


 正面の鏡を見ながら、深く長く、ユーメシアはため息をついた。


「ここの所、しょっちゅうじゃないかしら? ホッテテに診てもらったのでしょう、なんて言ってるの?」


 ホッテテはレジョメコウ城専任の医師である。


「アレも医者のくせして、何だか回りくどくウジウジと煮え切らない様子で、ねえ」


 大した事はないだの、様子を見るだのと、はっきりしないらしい。


「仮病じゃないわよね?」


「いや、まさか」


「それじゃあ、またセンティオロと密会でもして寝不足なのかしらね⁈」


「姫様…」


 鏡をバンバンと叩きながら、ユーメシアは苛立ちを抑えようと必死なようだ。


 周りの侍女たちは無駄に叱られないようにと、身体を小さくしながら働いている。


「インバイ」


「はぁい」


「あまりマクミンを甘やかしたりしないでちょうだい」


 インバイは深々と頭を下げた。

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