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第6章「道場を守れ」【2】

 言ってみれば、いつものように試合をするだけだ。


 しかし今回はこれまでとは違って、重圧を課せられる。


 もしも試合に負けた場合、既に貰っている報酬を返さなくてはならないのか、その辺がはっきりしなかった。


 午後からの試合を行なっている最中も、その事が気になって勝つまでに時間がかかったり、危うく負けそうにもなった。


 ゼオンは普段と変わらない様子に見えたが。


 負ける事など一つも考えていないのか、失って困るようなものなど何も無いのか、とにかくこういう時の彼は強いとエルスは思う。




「あら、それじゃあ負けられないじゃない」


 夕食を美味しそうに頬張りながら、アミネは笑顔で答えていた。


 最近の彼女はというと、以前のように食事を楽しんでいる姿に戻ったと感じられた。


 大学教授テキュンドの元へ通い始めた頃は、毎日自信ど食欲がなさそうであった。


「もうすぐ私の勉強は終わりよ。そしたら、このウベキアともお別れなんだから、きちんと片をつけてらっしゃいよ」


 いつも通りというなら、ゼオンも変わらずの食事量である。


 道場だけではなく、ここでも取り残されている気がするエルスであった。




 ザムニワ剣術道場には、いつものように人が多く訪れていた。


 ただし、これはいつもの試合の参加者ではない。


 今日は試合は休みになっている。


 それでもやって来ている人たちのお目当ては、もちろんエルスたちの試合である。


 既にエルスとゼオンは道場に入り、準備をしている。


 次に出入り口の扉が開いた時、道場内がしんと静まり返った。


 その空気を読み取ったゼオンが、顔をそちらへ向ける。


 そこには二つの人影があった。


 男一人、女一人。




 メイジー剣技館の代表はザップルという男の方で、歳はゼオンと同じくらいか。


「よろしく」


 特に気負った様子も無く、ポツリと一言だけ口にした。


 一方ユーバイ聖剣会からはタムタムという、エルスより二つ三つ上だろうかという女がやって来た。


「こっちの人と途中でバッタリ会っちゃって、一瞬に来ちゃったー!」


 対照的に白い歯を見せて、高い声で挨拶をしている。


 ちなみにこの二人、どちらも先に行われた三道場の対抗戦の代表ではないらしい。




 さて、ザップルとタムタムのどちらがエルスと、はたまたゼオンと戦うのか。


「それに関してはザムニワに選択権はありません。後々文句を付けられても困りますから」


 かの青年がエルスたちに説明する。


 どうにも、ザムニワへの条件が厳しすぎるのではないかとエルスは不満に思う。


「まあ、構わねえぜ。どのみち、相手の実力も分からねえんだし。どっちが来ても勝たなきゃ、ザムニワは格下げって所だもんな」


 仮にこちらに選択権があったとしても、ゼオンの言う通りに相手の実力が不明なので、選びようが無い。


「はい! じゃあ私はゼオンとやりたーい!」


 両手を挙げて猛烈に主張してきたのはタムタムであった。


「エルスで」


 ザップルの方にも異論は無いようで、対戦相手はあっさりと決まった格好である。




 四方の壁沿いには見物客がズラリと並び、試合の開始を待ち侘びている。


 どうやら彼らからも入場料を徴収したらしく、道場主のしたたかぶりが伺える。


 試合は一組ずつ、道場の中央で行われる事となった。


「第一試合として、ゼオン対タムタムの試合を行います。木剣で直接身体を撃つ行為は禁止です。どちらかが木剣を床に落とした若しくは折れた場合、試合続行不可能として、落とした方を負けとします」


 青年の説明が終わり、次は使用する木剣をザムニワで所持する中から本人たちで選ぶ事となった。


 木剣は長さによって三種類に分けられ、箱に入っている。


 タムタムは中間の長さの木剣から一本取り出した。


「うん、コレいいねー」


 決まったようだったが、彼女は更に中間の長さの木剣が入った箱に手を入れた。


「まさか…」


 そして、もう一本木剣を取り出した。


「コレもなかなか。いいよコレでやる!」


 左右の手に一本ずつ、木剣を握った。


 二刀流、観客もざわつく。


「私も、ピルセン様推しだから」


 ゼオンは長い木剣の中から二本取り出す。


「ほお、面白え」

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