第5章「テネリミの弟子」【8】
翌朝からすぐにテネリミ先導の元、ヌウラの呪術師への道がその幕を開けた。
一つの部屋にヌウラ、テネリミ、クワンとルジナ、リャガ、そしてミジャルである。
一人の呪術師を育てるのに、これだけの人数を集める事など、どこの国でもあり得ないのだとか。
しかし相手はヌウラ、ある意味危険人物なのだ。
要注意なのは、教えている途中にうっかりヌウラが力を解放する事のないように気を付けなければならない。
その度にテネリミたちが意識を失っていては、時間がどれだけあっても足りない。
「いいことヌウラ、強く祈らない、これは絶対にお願いするわ」
「…呪術師は祈るのが仕事じゃないの?」
「それはちゃんと呪術師になってからよ」
テネリミが教えている傍らで、クワンとルジナはこっそりと祈りを捧げていた。
これは、ヌウラが万が一力を解放してしまった時の為に、防御壁となるようにである。
二人だけでは気休めにもならないかも知れないが。
ヌウラの力が強大である事は、彼女には伝えないでおこうと決めていた。
余計な考えがヌウラの成長を妨げてしまわぬように。
二人が祈る姿は、両手を組んで目を閉じて集中する。
いかにも“祈ってます”という様子だが、声を出さなければヌウラには気付かれないだろうと踏んでいる。
その間、男二人は何をしているのかというと、実は何もしていない。
彼らには呪術師の力など無いのだから、当然といえば当然だが。
あくまで彼らは監視役であり、分析役なのである。
この教え方がヌウラに合っているのか、呪術師たちだけでは煮詰まってしまうかも知れない、最悪彼女ら三人が意識を失ってしまったら、その対処を任されてもいる。
「ミジャル、その場で立ち上がってみて」
テネリミからの指示が、ヌウラではなくミジャルに与えられた。
一体どういう事なのかはさっぱり分からないが、ミジャルは素直に椅子から腰を上げた。
「ヌウラ、相手はミジャルだけよ。彼に向かって“座れ”と祈って。強くは駄目よ、軽くね、軽く」
相手を決めるのは良い事だろうとリャガは思った。
先のエギロダの要塞では、呪術師はともかくそうでない者たちへは“クワンたちの救出を邪魔する者”だけに力が及んでいた。
それまで行く手を塞いでいた人々が、急に無表情で道を開けてくれた。
その時は異様にしか思えなかったが、つまりはそういう事だったのだ。
だからリャガたちガーディエフ軍は何も変化が起きなかったのだ。
リャガは、ふとミジャルの方を見たが、彼は立ったままであった。
「心の中でミジャルに命じたのね?」
「やったわ、軽く」
それからテネリミは少しの間天井を仰ぎ、再びヌウラの方へ視線を戻した。
「分かったわ。じゃあ、次はもう少し強く…そうね“いいから座りなさい”とでも祈ってみて」
ヌウラの祈りを強くさせる事は、テネリミたち呪術師を緊張させる。
しかし、やるしかないのだと。
リャガはしっかりとミジャルの様子を観察した。
彼のどんな変化も見逃さないように。
すると、ミジャルが表情を失ったように思われ、次の瞬間彼は椅子に腰を下ろしたのだ。
「おお」
と声を上げたリャガだったが、それと同時にルジナが椅子から転げ落ちた。
目を閉じたまま動かない。
クワンは両手で頭を抱え、テネリミはふわふわと身体を揺らしている。
二人も危険だ。
「ヌウラ、祈りを止めて」
まずいと感じたリャガは、ヌウラにそう命じた。
するとミジャルが我に返り、状況が一変している事に驚いていた。
「一旦休憩にしましょう。ルジナをベッドに運んであげなくては」
「ええ」
「そうね」
何とか持ち堪えたテネリミとクワンも、どこか疲れ切った表情であった。
「ルジナがどうかしたの?」
ヌウラにもこの空気が読めたようだ。
「心配はいらないよ。皆んな初めてだから緊張して疲れてしまったんだ」
リャガとミジャルでルジナを抱えて、彼女の部屋まで運んで行った。
「先が思いやられるな」
ミジャルがため息と共に。
「仕方ありません。時間がかかるのは想定済みですよ」
リャガは笑顔を添えて。




