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第5章「テネリミの弟子」【4】

「力の使い方を覚えず、あんな風に爆発させてたら、いつか世界中の呪術師が全滅しかねない」


 それだけではなく、呪術師ではない人々にも被害が及ぶ事が懸念されるとテネリミは言った。


 ただ、エギロダの要塞の前でヌウラが力を使う事になったのは、テネリミの誘導があったからだとミジャルは確信している。


「ちなみに、またヌウラの力は消えたからね」


 他人の事は言えない。


 あの時テネリミが倒れた事で、ヌウラの力が発動したのだと分かったのだが、ミジャルは彼女を止めようとはしなかった。


「聞きてる?」


「あ、ああ…それで、どうする? ヌウラが呪術師になるだなんて言い出すとは思えんが」


「説得しなくちゃね」




 日が沈み、夕食がつつがなく終わる。


 クワンとルジナは相変わらず自室で食事を済ませていたが。


 大量の食器を洗う為、係の兵士たちは川へ向かう。


 ヌウラも手伝おうと立ち上がったのだが、そこへテネリミが声をかけてきた。


「話があるのよ。あなたの部屋へ行きましょう」


 その空気を嗅ぎ取ったミジャルが、抜け目なく二人に近付いてきた。


「同席させてもらうぞ」


「ちょうど良かったわ。いま、あなたを呼びに行こうと思ってたのよ」


ふ それが本心かどうかをテネリミの表情から読み取れるほど、ミジャルは上手ではなかった。


 だからとにかくヌウラの近くにいて、テネリミが無茶を言ってこないように監視しなくてはならないのだ。






 ルジナはベッドの上で膝を抱えて小さくなり、動こうとしなかった。


 せっかく兵士たちが用意してくれた食事も、半分以上残している。


 考えるのは、エギロダの要塞での出来事ばかりである。


 エギロダの部下と馬に乗せられ、要塞を出たところまでは覚えている。


 だが、途中で急に意識を失った。


 目覚めたのは翌日で、周りには気の知れた仲間たちがいてくれた。


 クワンはまだ起きていなかった。


 ソエレはどこにも居なかった。


 テネリミが言うには、ヌウラの力が発動し、おそらくは世界中の呪術師が同じように意識を失ったのではないかと。


 世界中の呪術師の事などどうでもいい、ソエレを失った事が悲しい。


 コルス国本城リオーゲルフェイマへ連れて行かれたのだろうとも。


 ソエレは目覚めた時、見知らぬ場所で見た事もない連中に囲まれて、心細い思いでいるのだろうと思うと、ルジナはそれだけで息苦しくなってしまう。




 部屋の扉を叩く音がする。


 誰にも会いたくないし、どこへも行きたくない。


「クワンよ。私一人だから、開けてくれない?」


 ルジナはゆらりと立ち上がり、扉の前へよろよろと歩いていく。


 扉を開けると、そこには青い顔をしたクワンが立っていた。


 きっと自分も同じ顔をしているのだろうとルジナは感じ取った。


「なんだか久しぶりね」


 エギロダの要塞からルーマットへ戻る道中も、お互いに顔を合わせなかった。


 村へ着いてからも自室に閉じこもっていたので、こんな風に顔を合わせるのが何年かぶりに思えてしまう。


 隣の部屋だというのに。


 ルジナはクワンを部屋へ招き入れた。




「ちゃんと食べてる?」


 クワンの声には力が無い。


「少しだけね。ずっと部屋にいるからお腹も空かないし」


 食欲が無いのは、その為ではないのだが。


「私も。食べようとしても、ソエレの事が頭に浮かんできて、何も食べられなくなるの」


「食べようとするだけ偉いわ。私なんて、端から食べ切るのを諦めてるから」


 何を話せば良いのか分からない。


「テネリミは来た?」


「来たけど、会いたくないから扉も開けなかった。彼女だって心配してくれてるだろうから、悪いとは思ったけど」


「私もよ。無視しようと思ったのに、あまりにも何度も呼んでくるから、“会いたくないから、何処かへ行って”って言っちゃったわ」


「それ、聞いたかも」


 違う、そうじゃない。


 話したいのはテネリミの事じゃない。


 お互いにそう思っているからなのか、言葉が出なくなった。


 次に聞こえたクワンの声は鼻詰まりで、喋りにくそうであった。


「つくづく呆れるわ。私はなんて無力なんだろうって。呪術師の力だけじゃなく、頭も悪いし、腕っぷしだって弱い。」

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