第4章「ピルセンの師匠」【4】
もちろん、タンデの言う事は誰もが理解出来る所だ。
このスメロカでさえ危険なのだ。
この男に、ヤンドたちは仲間を殺された。
だからこそ、彼を信用出来ないし、したくもない。
ましてや手を組むなどもってのほか。
「だいたい、その後はどうするつもりなのよ?」
「その後って…?」
「しらばっくれてんじゃねえよ。上手い事ゲジョルってのを退けたって、その後はお前がエゾンモールを奪うつもりなんだよな⁈」
「なるほどな、そこまで考えてんなら、そりゃあ俺には全くなびかない訳だ」
「みなさん…」
タンデはそれでも仲間を説得しようと口を開く。
「それは、生き残ってからの話にしませんか? ゲジョルと戦って、もしも勝てたとして、全員が無事かどうかの保証すらないのですよ?」
「タンデ、お前こそ分かってんのか? ゲジョル、スメロカとの二試合だ。生き残る可能性は限りなくゼロに近くなるんだぞ」
するとタンデは腕を組み、何やら逡巡をしばし続けた。
「分かりました、これはもうしばらく黙っておこうかと思ったのですが。確かにこのままでは埒があきませんよね」
言うが早いか、タンデは自らの剣を抜き、スメロカに真上から振り下ろした。
途端、スメロカを縛っていた縄が解け、後ろに回していた手が上空に伸びる。
その手には短剣が握られていた。
スメロカはタンデの剣を短刀で受け止め、さっと身を翻してその場から飛び退いたのだ。
あっという間の出来事に、ヤンドたちは固まって見ているしかなかった。
「おいコラ、いきなり何しやがる⁈」
そりゃあ怒るよな、とツーライでさえもスメロカに同調した。
「短剣を隠し持っていましたね?」
タンデの指摘に、シャンが高い声を上げる。
「そ、そうよ! コイツ、自分で縄を斬ったんじゃない! 今までずっと、いつでも私たちを襲うつもりでいたのよ!」
「当たり前だろうが」
悪びれる様子のカケラもないスメロカである。
「お前らが俺を憎んでるのは知ってるさ。何しろ仲間を殺したんだからな。無防備に縛られてたら、本気で俺を殺そうとするかもしれん。万一の為に短剣を持ってて、何が悪い?」
「お互いに信用出来ない関係という事ですよ」
「じゃあ交渉決裂って事かよ?」
「そうじゃないです。私はあくまで手を組む事は賛成ですから」
「タンデ、お前は一体何を考えてるんだ?」
「このままでは良くないので、彼に機会を与えようと思っています」
そう言ってタンデは、スメロカから取り上げていた彼の剣を、その足元へ放り投げた。
「どうしろってんだ?」
「やりましょう、一対一で」
ヤンドたちは耳を疑った。
確かにタンデは元正規兵ではあるが、スメロカに勝てるほどの実力があるようには見えないからである。
顔や背格好は元より、慎重さを伺えないその性格など、とにかく”強そう”には見えない。
「私は“元”ですから、二十一人目には数えられませんが」
スメロカは自分の剣を拾い上げ、納得いかないように首を傾げた。
「まあいい、とにかくやりたいって事だよな?」
鞘から剣を引き抜いた。
その刀身を見つめるスメロカの顔は、かつてヤンドたちと戦ったあの時の表情を思い出させた。
仲間の仇とはいえ、雰囲気がある。
「殺すとか無しだぞ、いいな?」
果たして、ツーライの心配は杞憂に終わった。
勝負はあっけなくかたがついた。
お世辞にもカッコいいとは思えないタンデの構えだったが、スメロカの四方からの攻めにことごとく反応し、弾き返した。
続いてタンデの攻めとなったが、これまた不恰好な足捌きから繰り出す剣は、その太刀筋をツーライが目で追う事が出来なかった。
それはスメロカも同様だったようだ。
変則的に飛んでくる切っ先を防げたのは、僅かな回数だけであった。
スメロカの剣はタンデのそれに絡め取られるように彼の手を離れ、地面に落ちた。
タンデが圧倒したのだ。
「けっ、しばらく真剣勝負なんてしてなかったからな、腕が鈍っちまったか…」
タンデの切っ先がスメロカの顎を持ち上げた。
「言い訳は、みっともないですよ。負けた時は、素直に認めるべきです」




