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第4章「ピルセンの師匠」【1】

「まあとにかくだ、その賞金稼ぎ団も目的は俺たちと同じだろう。そいつらを退けなければ、今度こそ時間の無駄遣いになってしまう。全員、気を引き締めろ」


 返ってくるのは気の抜けた返事ばかりだったので、彼も肩をすくめるしかなかった。








 リーガス国。


 この地を旅する者の中に“八つ鳥の翼“の姿があった。


 元はアレイセリオン国で何でも屋稼業を営む五人の集団である。


 頭領のヤンド、髭面のツーライ、紅一点のシャン、冷静なコムノバ、新顔のタンデ。


 今は故あって最北の崖を目指している。


 ただし、その歩みは遅い、とても。


 原因は、路銀が底をついている他にない。


 その為、彼らは行く先々で仕事を探し、ある程度稼いだらまた旅を続ける、という事を繰り返しているのだ。


 今回立ち寄ったツーブーの町でも、早速仕事探しに力を注ぐ。


 ところが、なかなかこれといった仕事が見つからない。


 この町では農業の繁忙期も過ぎていて、工業も人手が足りているようだ。


「困ったわね、これじゃあ宿に泊まるのさえ無理じゃない」


 酒場に入る金も無い為、彼らは空き地の木の陰でだらだらと愚痴るばかり。


「別の町へ行きましょうか?」


 タンデの提案に賛成する者は誰もいなかった。


 皆、そんな気力が無いからである。




 そんな彼らに辺りを気にしながら近付いて来たのは、一人の老婆である。


 一見何の変哲もない老婆に見えるので、この町の住民であろう事は容易に想像出来る。


「如何なされた、ご婦人? 何か困り事なら、相談に乗りましょう」


 彼らの前で足を止めた老婆に、頭領ヤンドが声をかけた。


「そうなのよ、とても困っているの」


 この老婆の個人的な困り事、例えば財布を落としただの、はたまた愛猫が逃げ出した程度のものだと推測された。


 だが、背に腹は変えられない。


 この際何でもいいから報酬を手にしなければ、満足な食事にありつけないまま、この木陰が住処となってしまう。


「あなたにとっても絶好の出会いよ。私たちは何でも屋なんだから」


 シャンがとびきりの営業的な愛想で微笑みかける。


「この先の農具小屋に、人が住み着いちゃったのよ」


 小屋に人が住み着いた、ヤンドたちにとっては心底嫌な記憶を呼び起こす言葉であった。


 シャンの笑顔も引き攣り始める。


「一日二日ならしょうがないとも思ったけれど、何日も居座るもんだから“そろそろ出てっておくれ”って言ったら、“うるせえ、ババア!”なんて乱暴な物言いをしてくるものだから、怖くなっちゃって」


 ヤンドの額にも脂汗が浮かんでいた。


「要はその招かれざる客人を追い払えば良いのですね?」


 実体験のないタンデが、話を勝手に進めようとする。


 ツーライが睨みつけるも、彼は気付いてない様子だ。


 タンデは元正規兵で困っている一般人を放っておけない優しい性格なのだ、などと言っている場合ではない。


「ご婦人、困っているお気持ちは十分理解出来ますが、下手に揉め事を起こすより、もう少し様子を見ては如何ですか?」


 普段口数の少ないコムノバまでもが、断る方向で口を開いている。


「冗談じゃないわ、もう我慢の限界なの。どんな手を使ってもいいから、アイツを小屋から追い出してちょうだい。もちろんお金はだすから!」


「分かりました。全て我々“八つ鳥の翼“にお任せください!」


 引き受けてしまった。


 すると老婆は持っていた荷物の中から食べ物を取り出し、ヤンドたちに与えた。


 昨日の夜から食事抜きの彼らにとってはその全てが魅力的に見えた。


「し、仕方ねえな」


「そうね、お婆さんが困ってるんだもの」


 そう言ってツーライとシャンは食べ物に手をつけた。


 コムノバはやれやれと首を振っている。


 ヤンドはしかし、腹を決めたようで、


「やってみるか」


 と一言発した。




 相手はたった一人だと老婆は断言する。


 何か武器を持っているかとの問いには、小屋の中は薄暗く、怖くて確認していないと答えた。


「五対一ですよ、何とかなるでしょう」


 タンデだけは楽観的である。


 件の小屋の前まで彼らはやって来た。


 ツーライとシャン、そしてコムノバは全く動こうとしないので、タンデが小屋の扉に手をかけた。

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