第3章「気を失っていました」【6】
すかさずマントの人物の剣が、シュッとウリケに斬りかかる。
彼は自分の剣でそれを受け止めた。
だがウリケは宙に浮かんでいる状態な為、踏ん張りが効かない。
マントの人物が剣を振り切れば、棒で打たれた球のように、吹っ飛んでいくだけだった。
床に激突するかと思いきや、ウリケは着地の瞬間に身体を丸め、ごろごろと転がって衝撃を柔らげた。
「ウリケ⁈」
即座にウリケは身体を起こす。
「イタタ…」
無事には見えるが、身体をあちこちぶつけたようで、顔をしかめている。
「おい、オッサン」
ベタンゴは顔を上げた。
「外に馬を用意してある。片足は無事なんだから、それに乗ってさっさと逃げろ」
「え、だ…」
「アンタみたいに悪さを積み上げた奴が捕まったら、二度と外へは出られないぞ。それでもいいのか?」
エルスはウリケとマントの人物の中間に立ち、剣を構える。
「すまねえ、恩に着る!」
僅かに思案した挙句、ベタンゴはよろよろと立ち上がり、斬られた脚を引きずりながら外へ向かう。
「おい、ソイツは俺たちの獲物なんだけど!」
やや苛ついたウリケの声が飛ぶ。
マントの人物が被っていたフードを外した。
その顔を見て、エルスはぎょっとした。
決して知っている顔という訳ではない。
「うわ…真っ白…」
ウリケも驚いたように、マントの人物は肌が真っ白であった。
人の肌の色には到底思えなかった。
性別は男のようだが。
「ああー、やっぱり夜はいいよな」
マントの男はスッキリとした表情で、嬉しそうに笑みを浮かべている。
「いや、アンタ誰なの?」
その真っ白な顔にたじろいでいたウリケだったが、前に歩を進めながらマントの男に問い正した。
「賞金首だよ、ウリケ」
エルスはホミレートの町での記憶を呼び起こしていた。
四人を殺害した賞金首の目撃者の証言にあったのだ、肌が真っ白だったと。
「おおっ」
マントの男はまたも嬉しそうに声を上げた。
「ようやく俺を知ってる奴に出会えたよ。地道に活動してきた甲斐があるってもんだな」
「へえ、てっきりこいつらの七人目の仲間かと思ったけど、別件なんだ」
てくてくと歩みを止めないウリケは、エルスより前に踏み出た。
「だけど、どうしてくれるの? アイツが頭領だよね、きっと。アイツを捕らえなきゃ、報酬は半分ももらえないんだよ」
既にベタンゴは本館の外へ消えていた。
「あー、本当は全員逃がすつもりだったんだが、すっかり遅くなった。せめて頭領だけでもと思って、飛び込んできたのさ」
その時、ウリケはチラリとエルスに視線を送った。
「エルス、多分、コイツは相当強いから。自分の身は自分で守って」
「え…」
するとウリケはまた姿を消した。
今度はマントの男の足元に、低い姿勢で姿を現す。
ベタンゴと同じように足を斬るつもりだ。
ゴンッと鈍い音がした。
マントの男が蹴りを放ち、ウリケの顔面に直撃したのだ。
またもウリケは吹っ飛んだが、今度は床へ無防備に身体を打ち付けていた。
「うん、まあ、目が追いつかないほどの速さで移動して目標の至近処理に近付くって技だよな。残念だけど、まだまだだ。見破られてんのに馬鹿のひとつ覚えで同じ事をやってくるし。世の中には、もっと速く動ける奴がいるんだぜ?」
それでも立ち上がるウリケの鼻からは、血が流れていた。
「お前かと思ったんだけど、違うな」
「何がだよ?」
「ここから北にあるホミレートの町」
エルスは、ハッとした。
「そこで俺の仲間のステムが倒された。何と、相手は十代の少年だって話だ」
「………!」
ステムなら、エルスは名前どころか顔まで知っている。
倒したのは、エルスだから。
「ホミレートって町も、ステムって奴も知らないけど?」
「そうだな、お前じゃねえよな。アイツもその攻撃には慣れてて対応出来るから、負けるとは思えん」
「悪かったね」
するとマントの男はゆらりと顔をエルスの方へ向けた。
「じゃあ、お前か?」
エルスの鼓動が早鐘のように鳴っている。
どうするか、正直に答えるのか。
ウリケみたいに知らないと言えば、信じてくれるのか。




