第3章「気を失っていました」【2】
これがザムニワ道場だったら一人ずつ待っててくれるのだろうが、ここは違う。
当然すぐにエルスは囲まれる。
だが、エルスはさほど恐ろしさを感じていない。
こちらが剣を抜いているのに対し、彼らはあくまで木槌で対抗するようだ。
きっと普段から戦いをしていない集団なのだとエルスは推測した。
円の中心となった彼は、素早く回転して敵の反応を見た。
師匠のピルセン曰く、まず狙うべきは反応の鈍い者だと。
単純に、倒しやすい。
倒しやすい者から数を減らしていけば、残った者がたとえ反応の鋭い者でも、精神的に負荷がかかる。
動揺してくれれば能力は落ち、こちらが有利になると常に教わってきた。
これまで複数を一度に相手にした時に、エルスはそれを実践してしたのだ。
だから、今回もその教えに従う。
左にいる者へ襲いかかる。
彼にしてみれば、横を向いていたエルスが突然斬りかかってきたのだ。
反応出来なかった。
左腕と右の太ももへ一直線に裂かれた。
その勢いで敵を突き飛ばし、エルスは輪の中心から外へ飛び出した。
あっ、と一人がエルスの方へ身体を向けたが、攻めに転じるには遅過ぎた。
素早く踵を返したエルスが、左の頬と太ももを連続で貫いた。
この時ようやくベタンゴも驚いた。
二人目が倒れた隙に、エルスは更に敵から遠去かる。
「馬鹿野郎! ぼさっとしてるんじゃねえ!」
頭領の命令に反応できた一人が、木槌を上段に振りかざしてエルスに迫る。
しかしエルスには、その動きがちゃんと見えていた。
分かっていなかったのは敵の方で、木槌を振り下ろしたつもりだったが、その時にはもう柄が半分しか残っていなかったのだ。
エルスが瞬時に斬り落としていた。
短くなった柄を両手で握りしめたままの敵は、固まっている。
その右腕を狙った瞬間、その敵が突如エルスの方へ吹っ飛んできた。
もう一人が後ろから味方をエルスの方へ突き飛ばしたのだ。
これにはエルスも驚いたが、彼の身体は止まる事なく反応した。
飛んできた敵をかわしつつ、その腹に一太刀を入れる。
冷静だった、浅く斬るだけで済んだ。
どうやら一人は戦い慣れた者もいるようだ。
やや体制の崩れたエルスに、その木槌が飛んでくる。
頭が狙われている。
咄嗟に剣をかざして木槌を受け止めたが、刀身から強い衝撃が伝わり、剣を手放してしまいそうになった。
慌ててもう片方の手で柄を掴む。
だがもう一度、木槌が振り下ろされる。
幸運だったのは、敵が同じ所を狙ってきた事だった。
違う場所、腹や脚を攻められていたら、避けきれなかったかも知れない。
今度は上手くかわし、敵の右太ももからふくらはぎにかけての一閃。
シュッと血飛沫が上がる。
深過ぎたかと気持ちがやや乱れる。
ベタンゴは唖然としている。
立っているのはエルスとベタンゴだけになった。
「お前、何者だ? ガキのくせに…」
汗はかいているが、息は切れていない。
これくらいなら平気になったのかと、エルスは体力が上がったのを確信した。
「どうしますか?」
その一言がベタンゴを再び怒り心頭にさせたようだ。
「どうしますかだと? 部下をこれだけやられて、こっちがビビるとでも思っていやがるのか! 舐めやがってよお!」
エルスにも誤算はあった。
ゼオンの反応である。
アミネをこんな風にしたのは彼らで間違いない。
だから、ゼオンは激怒するのだろうとエルスは思っていた。
だが、こんな彼女を心配する気持ちの方が勝ってしまったようだ。
これでは戦力にならない。
ベタンゴは剣を持っていた。
部下がやられても逃げ出さず、一人でも戦おうという頭領をエルスは嫌いではない。
まだ実力の程は測れないが、この部下たちよりは数段戦えるのだろう。
そして、更に。
もう一人、外から入ってきたのだ。
その姿にエルスは目を丸くした。
「頭領!」
「遅えぞ、この馬鹿ヌーパルが!」
エルスは彼を知っていた。
ウベキアの剣術大会の優勝者であり、ゼオンに腕を骨折させられたヌーパルである。
「驚きましたよ、エルス」
それはこちらも同じである。
「まさか君が、こんな真似をするなんて」
“こんな真似”の度合いは、そっちの方が悪質だとエルスは断言出来る。




