第11章「逆転を担う」【9】
「“無情の犬”の頭領ドリムザンという男に連れて行かれてしまったのだ」
誰?
どうして?
「ドリムザンは賞金稼ぎだ。フガンを狙っているのもそいつらだよ。お前が倒したウリケってのも、そいつの部下だろう」
ネミリオのくぐもった声が、フードの中から聞こえてくる。
「アミネさんに何の関係があるんですか」
兵士は分からないといった表情である。
「ハモリオ印刷所でフガンの安否を確認していた時、どういう訳かゼオンとその女、きっとそうだろう、アミネが現れたんだ」
そしてドリムザンたちが印刷所の中へ押し込み、ネミリオたちも慌てて追いかけた。
「ゼオンはフガンとアミネを逃して、奴らの一人と戦ってた。旗色は悪かったようだがな」
そんな話は初耳だ。
何故今まで言ってくれなかったのか。
「すまん。こっちはこっちで仲間を失ったり、この先どうするのかって考えたりと、色々バタバタしていっぱいいっぱいだったんだ」
そんな言い訳より、ゼオンとアミネも巻き込まれていたのかと、エルスはますますこの一件から逃れられなくなったと知る。
「ゼオンさんが何処に行ったか分かりませんか」
エルスは兵士に問いかけたが、彼らは知らないという。
「ゼオンだって、俺たちは見ればすぐに分かる。しかし、俺たちが動き出してから、アイツの姿は全く見ていないんだ」
エルスはネミリオの方を向き、無言の圧力で同じ問いを彼にぶつけた。
「あの時、入り口からは所長のリドベがやって来た。奴も知らないというのなら、ゼオンは裏口から出て行ったんだろう。それしか考えられん」
フガンどころか、アミネやゼオンの無事さえ何の保証もない。
「駐屯所から一番近くの酒場にいると、ドリムザンは言っていたぞ」
「アミネさんは当然、賞金首なんかじゃありません。正規兵の方でアミネさんを助けてはもらえないのですか」
それには、兵士は最も残念そうな顔をした。
「俺たちは、奴に手を出せない。理由は知らんが、駐屯所の指揮官がドリムザンに頭が上がらんようなのだ」
賞金稼ぎのドリムザンが正規兵の指揮官より上の立場にいる、エルスはますますこんがらがる。
「ほらな、エルス。結局正規兵なんてこんなもんだ」
ネミリオの言葉に真実味を感じる。
「役に立たなくて、本当に申し訳ない」
謝ってもらった所で仕方がない。
とにかくその酒場まで案内してもらう事にした。
フガンの家の前では、ゼオンとクルーフの再戦が始まっていた。
ゼオンにとってクルーフは、相変わらず速く重い剣を繰り出してくる強敵である。
しかし、印刷所で戦った時ほどは押されていない印象であった。
互いの剣が十字に交差して、睨み合う。
「さっきより全然良いじゃねえか。あの時は仲間を逃すのに必死で、集中出来なかったのか」
確かにそうかも知れない。
奥の部屋へ向かったアミネとフガンに手を出させない為、ゼオンは部屋の扉を背にして必死だった。
「俺の勘に間違いはなかったみてえだな」
一度剣を合わせた事も、ゼオンには有利に働いたようだ。
とにかく少しはクルーフに追いついた、それがゼオンを精神的に引き上げていた。
ただし、あくまで二人の差が縮まっただけで、決してゼオンがクルーフと肩を並べた訳ではない。
ゼオンは二本の剣を上から横からと振るうのだが、クルーフは上からの攻めを剣で払い、横からのそれは足を使ってかわすのだ。
一旦下がるも、すぐにクルーフは飛び出して来てゼオンに二度三度と撃ち込んでくる。
それをゼオンは両の剣で受け止めるのだが、その度に彼は後退せざるを得ない。
前に攻め込めない状況は、やはり印刷所での戦いと相違がなかった。
しかし家の中にはフガンがいる。
母親を失ったニルマには、彼しかいないのだ。
賞金稼ぎに渡す訳にはいかない。
「それっ!」
余計な考えがゼオンの集中を乱した。
二本の剣の隙間を抜けたクルーフの剣が、ゼオンの二の腕を貫いた。
危うく剣を落としそうになったが、ギリギリ堪えた。
腕が燃えるように熱い。
「いや、よく避けたと思うぜ。俺は腕のど真ん中を貫いたつもりだったからな」




