第11章「逆転を担う」【6】
自分を追ってくる連中は正規軍ではないのだから、おそらく自分に賞金がかけられているのだろうとフガンは言った。
酒場の掲示板で彼の名を見た事は、ゼオンは一度もない。
当然だ。
賞金首だと知ってたら、印刷所で無防備に働いているはずがない。
「相当な額なんだろうな」
ゼオンはポツリと呟いた。
「いえ、さあ…」
フガンは不安げにゼオンを見上げる。
「なんて顔してやがるんだ。大丈夫だ、アンタで稼ごうなんて、思っちゃいねえよ」
「はあ…」
とにかくフガンは自分の家へ行って、家族の無事を確かめたいと言う。
「分かった、付き合ってやるよ」
ゼオンは彼の肩に、ポンと手を置いた。
「こっちはこっちで、さっきの野郎とケリをつけなきゃならねえからな」
フガンと一緒にいれば、また会えるという望みが叶いそうなのだ。
だからアミネは駐屯所へ上手く逃げ込めたと信じて、ゼオンはフガンと行動を共にすると決めたのだ。
ゼオンに再会を望まれているクルーフは、正規兵を尾行していた。
やがて訪れたのは、学校であった。
正規兵複数名は、正門から敷地へ入って行った。
ついでに自分も一緒にという訳にも行かず、クルーフは外から様子を伺う他なかった。
学校の敷地を取り囲む塀は高く、飛び越える技能は持ち合わせていない。
正門が駄目なら裏門へ周る。
ところが裏門へ差し掛かった時、クルーフは鉄格子で作られた扉から、正規兵がこっちに集まっているのを知った。
流石に焦った彼は、扉から見えない位置まで後退する。
ここで、彼らが出てくるのを待つしかない。
ずいぶんと待たされた。
その挙げ句、正規兵に連行されて裏門から出て来たのは、両手を縛られたウリケであった。
「疲れてるんだけど。馬車で運んでくんないのー? 怪我してるんだけどー!」
彼の普段の声が、離れているクルーフにも聞こえて来た。
助ける気は、毛頭ない。
それは頭領の仕事だ。
「ウリケは何だって学校なんかに…むむ、そうか、フガンの息子か」
もう少しすると、今度は一人の男の子が正規兵と一緒に裏門から出て来た。
一度確認した覚えがある、彼こそがニルマだと分かった。
兵とは別に大人の男がいるが、フガンではないので、付き添いの教師かと思われた。
ここまでの経緯は全く分からないが、ウリケが捕まってしまったのは事実である。
大きな問題は、一体誰を殺したというのか。
女性である事だけは、知っている。
「仕方ねえなあ」
はっきりしないのだから、確めるしかなさそうだとクルーフは思った。
「いや、待てよ…フガンだって家族の事が心配だろうから、そっちに行けばいいんじゃないのか」
ニルマの元にフガンがいないのだから、学校にはいない。
だとしたら、
「家か…」
駐屯所へ逃げ込む事に成功したアミネは、挫いた足を衛生兵に治療してもらった。
幸いな事に、女性に優しい兵士が多かった。
「それで、変な男というのは、どんな奴なんだ?」
実はこの駐屯所の真ん前にいるとアミネが告げると、兵士の一人が外へ見に行った。
「確かに、そんな奴がいたような気もするな。剣を持っててガラも悪そうだったぞ」
すぐに戻って来たのだが、兵士は誰もいないとアミネに言った。
「ははあん、貴女がここへ入ったのを見て、ソイツは逃げ出したんでしょう」
もう安心だと兵士は言ったが、アミネの方はそういう訳にもいかない。
「でもお、まだその辺を彷徨いているかも知れないと思うと、怖いんです」
精一杯に甘えてみる。
正規兵たちは顔を見合わせる。
「そ、それは怖いでしょうな。いいでしょう、本来はそういう事は許可しないのですが、今回に限り、しばらくここにいても良いという事にしましょう」
やってみるものだ。
「おおい、責任者はいるか!」
医務室のベッドに腰掛けて、アミネがようやく一息ついた頃、駐屯所の建物内に、大きな野太い声が響き渡った。
「………この声は………」
聞き覚えがある。
先程、印刷所で聞いたばかりだ。
「これはこれは、ドリムザン様ではありませんか。ご無沙汰しております。今日は一体、どのようなご用件でございましょうか?」




