第11章「逆転を担う」【5】
マントの男、確かにその通りであった。
この男が今回の件に関わりがあるだろうと、何となくエルスは感じた。
マントの男は、自分はネミリオだと名乗った。
ネミリオはエルスの名を知っていた。
もう確定である。
「タムタムは一緒じゃないのか?」
「タムタムさんは…」
「心配するな。タムタムは仲間だ。ついでに言えばザップルもな」
これで、しばらく前の事から合点がいった。
ザムニワ剣術道場でタムタムがゼオンと、ザップルがエルスと試合をしたのは、決して偶然ではなかったのだ。
「その時は本物の二人に金を渡して、代わってもらったらしいな。だがそれもこれも、お前らの実力を測る為だったんだ」
それで、タムタムがエルスを呼びに来たというのは、どういう事かと。
「その前は本気で剣を合わせたりしたが、今回はその逆で、力を貸してくれないか」
「実力試験に合格したって訳ですか」
ああ、まあ、とネミリオはエルスの嫌味に気まずそうに答える。
「相手は思った以上に強敵だ。情け無い話だけど、自分らの戦力では歯が立たなかった」
それならネミリオたちの負けで終わりにすれば良いではないかとエルスは思う。
「フガンを守りたいんだ。タムタムから聞いてないか」
聞いている。
「ここで諦める訳にはいかないんだ。頼む、協力してくれ」
「いや、既にもう………」
「えっ」
エルスはフガンの家までタムタムと一緒だった事、フガンの妻マニーサが亡くなった事、ニルマを守る為に学校でウリケを撃ち負かした事を述べた。
「そ…」
「あくまで、ニルマを助けようとしただけですけど」
「それって…」
「でも、フガンさんにまで何かあったら、ニルマは一人ぼっちになってしまいますね」
「もう、俺たちの仲間じゃん!」
仲間になる気はないが、フガンを助ける手助けをするとエルスは約束した。
「それから、僕は今ゼオンさんを探しています」
「ああ、アイツならもう奴らと一戦交えてるぜ、俺たちと一緒にな」
今度はネミリオが、印刷所での顛末を語って聞かせた。
死んでいたのはネミリオの仲間ハーネルだと、殺したのはゼオンではないとエルスは知った。
「ついでに言っとくと、お前らの連れの女はフガンと逃げた。だからきっと、今の所は無事なんじゃねえか、たぶん」
そんな大事な話を“ついでに”言う所は、あまり信用出来ない。
だがそうなると、どのみちフガンを探さなくてはならないという事である。
もうすっかり巻き込まれている、そう思うエルスであった。
賞金稼ぎの連中に見つからないように、フガンはコソコソと狭い路地を進んでいた。
妻と息子が心配だが、家までは少し遠回りになるが、仕方ない。
しかし走り続けてフラフラになり、あまり周りに気を配らなくなっている。
だから、人が真後ろにまで近付いているというのに、気が付かなかった。
突如フガンは、ガシッと肩を掴まれる。
耐える力のない彼は、そのまま後ろへ倒れ、肩を掴んだ人物に身体を預ける格好となった。
捕まったと思ったフガンは、後ろを振り返る事が出来ない。
「アミネはどうした?」
聞き覚えのある声だった。
恐る恐る顔を後ろへ向けてみると、頭の上に、凄まじい形相のゼオンがいた。
これはこれで恐怖である。
「あ、あの…」
「アミネはどうしたと聞いてるんだ。まさか、奴らに見つかって、お前一人だけ逃げて来たんじゃねえだろうな⁈」
頭上からの圧迫に、フガンは押し潰されそうになっていた。
「ちち、違います…! 違いますから…!」
アミネは正規軍の駐屯所へ逃げ込んだはずだと、フガンは声を震わせながらゼオンに説明した。
「駐屯所の前には、その、印刷所に来た連中が待ち構えてましたが、アミネさんは自分は呪術師だから気付かれずに通り過ぎる事が出来ると言ってました」
「そうか。それで、アミネはちゃんと駐屯所へ入れたんだな?」
「あ、いえ、そこまでは見てなくて…」
「何だと」
一瞬表情が和らいだゼオンだったが、また険しい顔になる。
「無責任な野郎だな! アミネに何かあったら、タダじゃ済まさねえぞ!」
「ひぃっ! ご、ごめんなさい!」




