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第11章「逆転を担う」【4】

 入り口から建物の中央を真っ直ぐ進んでいると、端の方の床に血痕を発見した。


 おそらく先程担架で運ばれていった、死体のものだろう。


 他に血痕らしきものを見つけられないまま、奥の部屋の前までやってきた。


「見てくれよ、蝶番が壊されて、扉があんな所に飛ばされてる。やりたい放題にも程があると思わないか?」


 奥の部屋では、床に印刷前の紙が大量に散乱していた。


 足跡が着いている紙もある事から、誰かが踏んだという事で間違いない。


 その足跡を辿って行くと、壊された扉の向かいの壁に、もう一枚扉があった。


 リドベ曰く、これは裏口であり、ここから外へ出る事が出来るそうだ。


 しばらく足跡を眺めていたエルスだったが、やがて顔を上げた。


「リドベさん、ありがとう。僕はここから外へ出ます」


 もしもフガンに会えたら、リドベが心配していたと伝えると約束した。


 エルスの表情を見ていたリドベは、ふとこんな事を尋ねる。


「ひょっとして、何か分かったのかい?」


「あ、いえ…特に何も…」


 そそくさと裏口から出て行くエルスだが、咄嗟に嘘をついてしまった。


 床に散らばっていた紙に着いていた足跡の一つは、ゼオンのものではないかと彼は思ったのだ。


 しかし仮にゼオンだったとして、彼がここで何をしたのかが分からない以上、不用意な発言は控えなくてはならない。


 あの男を殺したのがゼオンだったとも、残念ながら言い切れない。






 ネミリオと別れたザップルは、身体のあちこちに付けられた傷を治療してもらう為、病院へとやって来ていた。


 幸いにも深い傷は一つも無かった、いや、浅い傷しか着けなかった敵の腕前には感服するばかりである。


 出血も少なく、治療にはさほど時間はかからなかった。


 待合室の長椅子に座り、支払いに呼ばれるのをザップルは待っていた。


 それにしても、敵頭領の強さは織り込み済みだったが、その手下まであの強さだとは、いささか考えが甘かったと言わざるを得ない。


 ネミリオは一人でフガンを探しに行ったのだが、敵に遭遇しても勝ち目はないのではと心配が募る。


「あれ………」


 自身の裏腿を押さえながらザップルに近付いてきたのは、仲間のタムタムであった。


 どう見ても彼女も怪我を負ったと分かった為、ザップルは尚更ネミリオの身を案じるしかなかった。


 ザップルとタムタムは、互いの状況を報告し合った。


 まずどうしても言っておかなくてはならないのは、ハーネルが敵に殺された事である。


 これにはタムタムも大いに驚き、気分が沈んでしまったようだ。


 フガンは印刷所から逃げたのだが、何処へ行ったのかは分からないと告げたが、タムタムはあまり聞いていないように思われた。


 そしてタムタムもまた、重大な件を報告しなくてはならなかった。


「フガンのカミさんが? そうか…」


 ザップルも返す言葉が無かった。


 しばらく二人して黙りこくった。


「ねえ、真面目な提案なんだけどさ、フガンから手を引くってのはどう?」


「手を引くって、それは…」


「意地を張ってる場合じゃないと思うんだよね、実際。下手をしたら、ネミリオまで失いかねないよ?」


 最悪の場合、全滅。


 ザップルとて分かっている。


「息子のニルマも狙われてるんだけど、エルスが何とかしてくれないかな、せめて」






 フガンを探すとは言っても、何処をどう探せばいいのかエルスには見当もつかない。


 家には居なかった。


 それどころか、家では彼の妻のマニーサが亡くなっていた。


 犯人のウリケは、正規兵に捕えられただろうか。


 違う、どうなったのかを心配しなくてはならないのは、ニルマの方だ。


 母親の件を知らされただろうか。


 突然、エルスは右腕を掴まれて路地に引っ張り込まれた。


 咄嗟に彼は左手で剣の柄を握り、剣を抜こうと試みた。


 鞘から全てを引き抜く事は叶わなかったが、露出させた刀身を相手に押し付けようと身体を捻る。


「ま、待て、俺だ、マントの男だ!」


 ネミリオである。


 エルスの半刀身は、危うくネミリオのマントを引き裂く寸前だった。


「大学で会って以来だよな。まずは落ち着いてくれると助かる」

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