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第11章「逆転を担う」【2】

 アミネは困った。


 このままでは、ここに釘付けとなる。


 一旦ここから離れて別の場所に避難しようかと、今まさにフガンに相談しようと思っていた。


 その彼に目を向けると、自分とは違う事を考えているように思われた。


「あっ」


 ふとアミネは、とんでもない事を思い出した。


 その声にはフガンも反応した。


「どうかしましたか?」


「私、呪術師でした」


 だから何だという視線が、フガンから向けられる。


「相手に気付かれずに、その横を通り抜ける事が出来るんです」


 自分でも、どうかしていた。


 どうしてこの事を今まで思い出せなかったのか。


「じゃあ、あの男にバレずに駐屯所へ逃げ込める訳ですね?」


「そうです。しかも、私だけじゃなくてフガンさんも一緒に行けますからね」


 旅をしている際、遠くに盗賊団が現れても、わざわざ戦わずともその場から離脱出来るとアミネは説明した。


 相手はたった一人だし、こちらはエルスとゼオンの二人を連れているが、盗賊たちに気付かれた事はないのだと。


「それならば安心ですね」


 足はもう少し引き摺る事になるが、駐屯所の中には医者がいるかもしれない。


「アミネさん、ですが私は一緒には行けません」


「そんな、どうして⁈」


「私は自分の家へ戻ります」


 家族が心配だと、フガンは言う。


「危険な目に遭っていやしないかと、どんどん心配になってきました。放ってはおけません」


「だってそれは、まず駐屯所へ入って、それから中の兵士に頼めばいいじゃないですか。その方が絶対安全だと思いませんか?」


「分かります。でも、それでは時間がかかります。私は居ても立っても居られないのです」


 それだけ言うと、フガンはクルーフに見られないように身を隠しながら、アミネの元から去っていったのだ。


「嘘でしょ…」


 ただ、フガンを責められない。


 もっと前から、彼は家族の事を考えていたのだろう。


 だけど、歩くのもやっとというアミネを残していく訳にもいかなかったのだ。


 仕方なく、自分だけでも駐屯所へ逃げ込もうと決意した。


 その為に、あの目障りな男に術をかけなければならない。


 出来るのか。


 今隠れている場所から身体を通りに出さなければ、術をかけられない。


 失敗し、更に見つかってしまったら、それこそ終わりである。


 走るのは不可能、絶対に追いつかれる。


 せめて、視線を外してくれたら。




 術をかけるタイミングを見定める事が出来ずにまごまごしていると、通りの向こうから足音が近付いてくるのが分かった。


 まさかフガンが戻ってきたのかと思ったが、正面から来たら絶対見つかるではないかと。


 だが、違った。


 全く別の男が走って来たのだ。


 もちろんアミネは見た事のない人物である。


 その男も駐屯所を目指しているのは、間違いなさそうだ。


 しかし何故か通りの真ん中で仁王立ちしている男がいるので、彼は進路を通りの端へずらした。


 その時アミネは見た、目障りな男が、走って来る男の方へ視線を向けたのを。


 今しかない。


 アミネは通りへ身を乗り出し、仁王立ちの男へ手をかざす。


 そして精一杯の力を注いだ。




 当然ながら、クルーフもこちらへ走って来る男に気が付いていた。


 その男は端へ避けてクルーフの横を通り過ぎようとしていた。


 だが、クルーフは咄嗟にその男の前に立ちはだかった。


「おい、どこへ行く⁈」


「わ、わあっ!」


 走っていた男はクルーフにぶつかりそうになりながら、慌てて足を止めた。


「あ、危ないじゃないですか! こっちは急いでいるのに!」


「まさか、駐屯所へ行くんじゃないだろうな?」


「そのまさかですよ! 人が殺されていると聞いたので、通報しに行く所です!」


「人が…殺されてる?」


 きっと印刷所で、頭領ドリムザンが殺した奴が発見されたのだとクルーフは思った。


「私、行きますから!」


 クルーフが考え事をしている間に、男は彼の脇をすり抜けて駐屯所へ走って行った。


 まだ男に聞きたい事があったクルーフだが、追いかける訳にもいかず、見送るしかなかった。




「私の番ね」


 術がかかっていると信じるしかない。


 アミネは通りへ全身を現し、足を引き摺りながらクルーフの方へ歩いて行く。

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