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第一話



 

 僕の名前は小野啓介(おのけいすけ)。通信制のA高校に通っている平凡な高校1年生。

「だったはずだった」……二か月前の四月までは。

 僕は以前までこれといった目標がなくて、成績は平凡、運動神経も人並み程度。

僕は人より倍飽き性で、小学生の頃からピアノ教室や絵画教室に通っていたが、どれも1年も続かずに、辞めていた。


一番早い時は一ヶ月もしない内に、辞めていた。

今でも母が時間寸前に、申し訳なさそうに教室に連絡を入れていたのを覚えている。

僕が習い事の時間になると、いつも泣き喚いて行きたくないとわがままを言っていたからだ。


そんな僕に両親は最初こそ困っていたが、徐々に慣れていき、

中学の頃には特に何も言わずに、応援してくれるようになった。

そんな両親にはとても感謝している。


僕が入った中学は部活が充実しているところだったので、周りの友達や同級生がみんな部活に入っていた。

僕は入学してすぐに美術部に入ったが、入部すると周りが想像以上に上手いことに気づいて、挫折した……


想像していたのと違って、正直別に楽しくなかったし、美術部に友達がいなかったので、

すぐに興味が薄れていった。——入部して約一ヶ月目の出来事だった。


部室に行けなくなってから、一週間ほど経った日、顧問の先生と話をした。

「小野は美術部を続ける気はあるのか?」

想像通り、部活を続ける意思の確認だった。

「部活辞めたいです」僕が辞める意思を伝えると

「そうか」と手短に言って、用件が済んだように帰っていった。


顧問の宮崎先生は生徒に甘いことで有名で、特に僕をくどく引き留めたりせずに、

辞めるまでがスムーズだった。


その日の放課後に、美術部の部長をしていた生徒と廊下で鉢合わせした。

彼は勉強、スポーツともに優秀で、さらに絵も上手いときた。

そんな彼と僕はクラスが同じで、入学した頃に少し話したことがある。

確か、趣味や学校のことなどありふれた世間話をした。


「こんにちは。啓介くん、今大丈夫?」彼は柔らかい声で言った。

「聞きたいことがあるんだけど……美術部のことでさ」

「ああ……うん、ごめん…!いま急いでるから!」


なんとなく空気が気まずくて、僕はその場から逃げるように、前かがみに歩いて、その場から離れた。少し歩いてから、彼の方を振り返った。彼は寂しい目をしていた気がする。


正直呆気なかった……中学生になって、部活に入ったら

今までの自分とちょっとは変わるのかなと考えていたけれど、

実際そんなことはなくて、飽き性な自分はちっとも変わっていなかった。


それから中2の秋頃に、親にあるバンドのライブに連れて行かれた。

正直あまり音楽は知らなかったので、漠然と聴いていたが、メンバーがみんな楽しそうにライブをしていたのが、強烈に印象に残った。

会場が観客の熱気で包まれる中、汗をかきながらも、演奏しているのを見て彼らが全力で楽しんでやっていることが僕に伝わってきた。


学校では部活や習い事を自分から楽しそうにやっている人はあまりいなかったので、自分から楽しんでやっている様が新鮮だった。


今思えばそれが自分の中で、夢を追う人を羨ましく思うようになったきっかけだったのかもしれない。

その頃から彼らの背中がとても輝いて見えるようになった。


同時に(ああ、自分はあんな風にはなれないな…)なんて達観が心の中に生まれた。


とにかく僕は何かに熱中したかった。そうすれば心に棲みつくこの空虚感を満たせると思ったから。


——そんな僕に、転機が訪れた。



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