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第十一夜 雷獣(その四)

 東京、秋葉原。その一角に平将門が経営する『千紙屋』と言うあやかし専門の金融業者があった。

 青龍、白虎、朱雀、玄武による四神結界に護られている東京だが、朱雀の守護する海浜地区に反属性である山、玄武の属性である高層マンションが乱立したことで四神結界は弱まり、東京の街はあやかしたちが人間社会に交じり生活していた。

 だが戸籍もないあやかしたちは金融面で弱い。そんな彼らに貸し出しや保証人となり、時には妖怪と人間の揉め事などにも介入する。

 それが『千紙屋』……そんな千紙屋に、将門公に見い出された二人の人間が加わる。

 これは新田周平、芦屋結衣。二人の見習い陰陽師の物語である。

●第十一夜 雷獣(その四)

 プリンパフェをスプーンでぷるぷるさせながら、こなきじじいのあやかしである小名木は、ケーキ全種チャレンジをする芦屋結衣(あしや・ゆい)とそれをおぃおぃと言う顔で珈琲を啜る新田周平(あらた・しゅうへい)に声を掛ける。

「いやいや、雷獣を帰すとは……お強いですなぁ」

「ふぉーふぇふぉふぁふぁふぁふょ?」

「……結衣、食べるか喋るかどっちかにしろ」

 もぐもぐとケーキを食べながら答えた結衣は、頭を抱えた新田にそう言われると、少し悩んだ後……食べることに集中する。

「って食べるんか!」

「んぐっ、んぐっ……だって、ここからここまで、って一度やってみたかったんだもん!」

 結衣のその返事に思わず突っ込む新田、そんな二人を微笑ましそうに見ていた小名木がまあまあと声を掛ける。

「まあまあ、そう怒らないであげて下さい。若い子はよく食べるべきですよ」

「いや、小名木さんも……って姿を変えれるんでしたよね」

 充分若い、そう言いかけた新田の失言に笑って返す小名木。そう、小名木はあやかしとしての能力で姿を変えられるのだ。

 今の若い姿は仮初の姿……あやかしとしての本来の姿は別にある。

「小名木さんの本当の姿って、どんなのですか?」

「そうですね……結衣さん、二人っきりの時ならお見せしても良いですよ?」

 小名木の本当の姿に興味を持った結衣に、彼はそうウィンクしながら返す。

 思わず新田が結衣を庇うと、小名木は冗談ですよと笑ってみせる。

 一方、小名木の発言の真意が分からなかった結衣はと言うと、新田に半ば抱きしめられるような体勢になり、そっちの意味で顔を赤く染める。

「ちょ、ちょっとお手洗い!」

 耳まで染まった顔を見られたくないのか、慌てて席を立つ結衣。

 彼女を見送った新田は、小名木に「従業員に対するセクハラは許しませんよ」と釘を刺す。

「ふふ……それにしても彼女は可愛いですね。それに、なによりも強い。新田さんもお強いですが、失礼ながら彼女には敵わないのでは?」

 急に眼を細め、そう告げながら紅茶で喉を潤す小名木に、新田は何を言いたいのかと問う。

「いえ……新田さんさえよろしければ、貴方を強くする方法がありますよ、と」

「今以上強く……なれる、と?」

 餌に喰い付いた、内心そうほくそ笑む小名木に気付かず、新田は真剣なまなざしを向ける。

 どうすれば陰陽師として強くなれるのか。陰陽五行説を学んでみたが、結局は結衣や鬼灯に頼らなければ雷獣は倒せなかった。

 敵対するあやかしは強くなる一方……東京を護る四神結界を結衣の魂の中に作った東京で見立てる儀式も、結局は彼女に頼ることになる。このままでは置いて行かれる。

 そう、新田は焦っていたのだ。

「新田さん……強くなりたいですか?」

 小名木はそう訊ねて来る。その言葉に、新田は暫しの逡巡の後……コクリと頷いた。


「もう、新田ったら急に抱きしめて来るんだから……」

 化粧室の鏡の前。結衣は真っ赤になった顔に濡らしたハンカチを当てて冷ます。

 結衣にとって、新田は大事なパートナーだ。だが、それ以上の感情があると思っている。

 それが恋なのか何なのか……まだはっきりと自覚はないが、大切な人、失いたくない人であることは間違いない。

 彼を夢の中で新田を殺した時……そして地獄での修行で彼が初めて死んだ時、酷く取り乱したのを覚えている。

 気持ちを伝えたとしても、きっと彼は子ども扱いして笑うだろう。

 だから、今はまだ、私の中だけの秘密。

 蛇口を捻り、流れ出ていた水を止めると何時もの白い肌になった自分を鏡で見る。

 白い髪、赤い瞳を隠す黄色いレンズの丸眼鏡、そして白い肌……先天性色素欠乏症、所謂アルビノである自分は、他の人とはだいぶ違う。

 そんな自分の姿が、新田の好きになってくれればいいな、そんなことを考えながら店に戻った結衣であったが、そこには新田も、小名木の姿も無かった。

「新田たちもトイレ……かな?」

 そう結衣が呟いたところで彼女のスマートフォンが震える。

 新田からだ、そう直感した彼女はメッセージアプリのNYAINEを開く。

 そこには予想通り新田からのメッセージが届いていた。

「えっと、なになに……『結衣へ、ちょっと小名木さんと修行してくる。暫く留守にする』って、新田!?」

 慌てて結衣はメッセージを返す。だが幾ら待っても既読にはならず、業を煮やした彼女は新田のスマートフォンに向けて発信する。

『お掛けになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っておりません……』

 何度掛け直しても自動音声のメッセージが流れ、電話が繋がることは無い。

「おっ、結衣……どうした、泣きそうな顔をして?」

 スマートフォンを手に、立ち尽くす結衣に通りかかった鬼灯が声を掛ける。

 振り返った結衣は、目尻に涙を浮かべながら、「新田がどっか行っちゃった」と告げる。

「修行に行っただけなら、すぐ帰って来るよ」

 結衣に送られたメッセージを見た鬼灯は、そう彼女を元気づける。

 だが落ち込んだ結衣は、そうだよね……すぐ帰って来るよね、そう呟くので精一杯。

「帰って来るよ、きっとね」

「うん……」

 鬼灯の大きな手で頭を撫でられながら、結衣は頷く。

 しかし、一日経っても、三日経っても、一週間経っても、新田は帰って来なかった。


「仕方ありません。四神結界の見立ては、新田君抜きでやるしかありませんね」

 東京、秋葉原……千紙屋の社長室で、平将門(たいらのまさかど)が結衣にそう告げる。

 居ない者を待って、結界の修復が遅れるのは、それこそ彼が望まぬ結果を招く……将門の言葉に、結衣は理性では分かっているのだが、感情が否定する。

「結衣君。新田君はきっと強くなって帰って来ます。その時に笑顔で迎えれるように、貴方も最善の努力をしなくてはなりません」

「……はい」

 結衣から返る元気のない返事に、将門は大きくため息を漏らす。

 だが、ここで引き返す訳にはもう行かない……東京を護る四神結界の崩壊は近いのだ。

「知っての通り、隅田川には青龍が宿っています。青龍をその身に宿すには、青龍と語らうのが一番の近道でしょう」

 まずは隅田川へ行きなさい。そして青龍と話しなさい。そう将門は告げる。

「……わかりました」

 そう答えると、とぼとぼと社長室を後にする結衣……その後ろ姿を見送りながら、将門も辛そうな表情を浮かべる。

「(結衣君……厳しいでしょうが、今は動くしかありません。それにしても新田君の星が視えないのが気がかりです)」

 将門は窓の外を見上げ、星の動きを読む……結衣には伝えなかったが、再会の予兆が視えた。だが、それは吉兆どちらかが分からない。再会する筈の新田の星が視えないのだ。

「(悪い予感がします。頑張ってください、結衣君)」

 扉の向こうで出掛ける準備をしている結衣に、将門は声にならない応援を送るのであった。

新田は小名木に誘われてしまった。

残された結衣たちは、彼の助けなく四神集めに奔走する。


次回新章、明日の更新です!

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