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 少しだけ遅くなったが、本日の予定も決まったことだし、まず今日するべきことをしよう。

 食器の後片付けが終わり、リーラがのんびりと寛いでいる傍を離れ、玄関口にかけられている弓を手に取る。

 昔狩りに使われていたらしい弓の弦を軽く引っ張り、張り具合を確認すると外にでる。

 今日も晴天。いい風が吹きなんとも心地いい。

 深呼吸で軽く息を整え、エリカはおもむろに弓を森に向けて掲げた。そのまま弦を思いっきり引っ張り、弦をひく指先に魔力を込める。

 仄かに光る指先を気にすることなく、エリカは弦を離した。

 すると弓がないにも関わらず、光の矢が森に向かって放たれた。光の矢は一気に森を突き抜ける。その刹那、光が森中に広がりすぐに消え去った。


「ふぅ……」


 まずは一つ目の仕事が終わったと肩の力を抜く。これで一か月は持つだろう。

 家には念のために退魔石も設置しているので、あと三日から四日ほど滞在するはずのリーラの身の安全は保障されたはずだ。

 さて後は針仕事に取り掛かろうと踵を返す。が、そこには家の中にいるはずのリーラが佇んでいた。


「……っ!?」


(あっぶねぇ!声出るところだったっ!)


「今の光魔法ですよね!?エリカさんは光魔法が使えるのですか!?」

「……」


(あ~どうすっかな。見られちまったし、誤魔化すことできねぇよな……)


 光属性は希少で発現した場合、国に届け出ることが義務付けられているそうだ。

 届け出たからといって身柄が拘束されることはないが、管理対象ではあるそうで、婚姻なども時に口出されるという。親子で同じになることはあまりないのだが、遺伝する場合もあるためらしい。

 光属性は回復は勿論、魔防に特化しているので、森を持つ領地には必要な人材であり、国としても国防に役立つため確保しておきたいのだとか。そんな話をここに来た時町長が話していた。

 彼は神経質そうな顔を緩め、「まあここら辺で現れたことなんてないのだがね」と笑い、一応母の属性を聞いてきた。

 母は水属性と答え、魔力量が少なくコップ一杯程度の水しか出せないなどと笑っていたが、それは嘘だった。

 母も自分同様、光属性だった。ただ、そのことは誰にも話してはいない。

 海を越えた外国出身の人間だったので、この国でどういう扱いを受けるのか不安だった。そのため属性は隠して生活してきたという。知っていたのは亡き夫だけだったそうだ。

 婚家での扱いはあまりいいものでなかったので、隠していてよかったと呟いていたのが記憶に残っている。

 きっと光属性だと知られたら、離縁され国に売り渡されるとでも思っていたのかもしれない。


「今なにをなさっていたのですか?」


 恐る恐る聞いてくるリーラに、意識を戻し肩を竦めるだけの返事を返す。

 これ以上聞いてくるなと雰囲気を出すと、リーラは眉を下げながら「差し出がましいことを申しました」とそれ以上のことは聞いてくることはなかった。

 ただしょんぼりと肩を落とす姿に、なぜ落ち込むのかとこちらが慌ててしまう。

 屈んで彼女の様子を窺うが、少しだけ寂しそうに笑うだけで何も言わない。

 エリカは慌てて地面に『あなたの安全のため』とだけ書く。

 この家は森に近く、退魔石を設置していても不安が残る。

 だから一応結界を張ったのだと言いたいが、性別以外に属性も隠して生活している身で言えるわけもなくそれしか書けなかった。

 それをどう受け取ったのか、リーラは「私のため……」と呟きふわりと微笑んだ。

 それは彼女の妖精のような容貌をさらに神秘的に見せ、はからずもエリカは見惚れてしまう。

 綺麗で愛らしい子だとは思っていたが、花のように笑うと引き込まれるような魅力を持つ少女なのだと思う。

 彼女と婚約破棄したという男は、こんな綺麗で愛らしく、なんにでも一生懸命な少女の何かイヤだったというのだろう。

 自分だったらこんな風に笑ってもらうために、できる事はなんでもしてあげるのに。


(……まて。今なにを思ったんだ俺)


 ハッと意識を戻し、動揺を隠しつつリーラに家に戻ろうと手を差し出す。

 無意識とはいえエスコトートのようの形になったことに気づかず、エリカはニコリと笑いで誤魔化し戸惑い気味のリーラの手を掴んだ。

 小さくて柔らかい手は、当然のことながら自分とは全然違う。指の長さも大きさもエリカの方が大きく、すっぽりと彼女の手を包み込んでしまう。

 なにもかも小さくて可愛い子なのだ。守ってあげたくなるのは当然で、笑っていてほしいと思うのも当然。彼女の人なりを知れば誰もがそう思うだろう。

 だから何もおかしいことはない。当たり前のことなのだ。

 エリカはそう一人ごちながら、リーラの手をひき玄関をくぐった。

 手を引かれたリーラの頬が僅かに染まり、戸惑い顔になっていることに気づくことはなかった。




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