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「よっと……っ」
なんとか女性を抱きかかえ、放り出していた荷物と共に家に着いた。
少しだけ古いがこじんまりとした住まいは、親子二人で生活するには丁度よく、母と共にひっそりと生活してきた。
今はたった一人のその家に到着するなり、エリカは女性を元は母の部屋だった場所に寝かせると、ドサリと床に腰を落とし座り込んでしまった。
「……つっかれた~」
家までかなりの道のりを人間一人担いで来たので、もう足はガクガク。腰もかなり痛い。
このまま何もしないでいたいが、そうしてもおられず、よっこらしょと再び立ち上がると着替えるために自室に行く。
母のワンピースを一着ダメにしてしまった。どこもかしこも泥だらけの上、木の枝で引っ掛けたのか破れた箇所も見受けられる。それに非常事態だったとはいえ、スカートは最早意味を成していないほど短い。
母に申し訳なく思いながら、二着しかもっていない男物のスラックスを取り出す。これからバタバタと忙しく動き回ること確定なのだし、動きやすさ重視でいた方がいいだろう。
タオルで乱暴に髪や体の汚れを拭き取り、シンプルなシャツとスラックスを身につける。
長く伸びた髪は後頭部で一括りにし、枝でひっかけた傷に薬をつけ湿布を貼る。引き締めと気合を込めて、頬を軽く叩き自室をでた。
まずは女性の身支度だ。ボロボロになってしまったドレスと思われる服を脱がせ、泥水で汚れてしまっている髪や顔、身体を清めケガがあれば手当していく。
もう心は無の境地。これは人助け。邪な事はないと、できるだけ身体など見ないよう苦心つつなんとか乗り越えた。
服は母の物を着せ、初めに寝かせたことで汚れてしまった寝具も交換する。
やっとすべてが終わるころには、太陽は真ん中を通り過ぎ、お昼とは言えない時間帯になっていた。
すやすや眠る女性は、やはり少女と言えるほどの年齢に見える。自分より一つ二つ年下だろうか。緩やかに波打つ金髪に白い肌。細く華奢な身体も相まって、同じ人間とは思えない。まるで妖精のような人だとエリカは思う。
とりあえず、一通りのことはやった。あとは体調を崩さないかが心配だ。
ともあれ、昼食には遅い時間帯だがお腹が空いたので、まずは腹ごしらえだと椅子から立ち上がる。
買ってきた肉の下処理と魔法石の交換もしなければならない。薪はまだ備蓄はあるが、多めに貯めておくことに越したことはないし、例のワンピース以外の依頼品もまだ途中のままだ。やることは多い。
彼女一人寝かせておくことは不安だが、自分の他に誰もいないし、傍にいてもすることはないのだから、まずはやらなければならないことをやろう。
ふとベッドチェアに置かれたペンダントが目に入り、泥で汚れてしまったそれをハンカチで拭きとっておく。
見事な装飾のされたペンダントだ。モチーフは何かの花なのだろうが、生憎自分の知らない花のようだった。ただ真ん中にはめ込まれてあるピンクの石は、庶民の目から見ても分かる。これは宝石だ。
宝石なぞ裕福な商人や貴族くらいしか身につけない代物。そんな高価なものを首にぶら下げていた。この女性はきっと身分の高い人なのだろう。
着ていた物から察するに、商家の人間ではない。おそらく貴族。
その貴族様が、なぜか上流から流されてきたのか。厄介事の臭いがぷんぷんする。
エリカは「これ以上の厄介事はごめんなんだが……」と肩を落としつつ、ドアノブに手をかけた。