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 道下で流れている川の深さはそれほどないが、それでも対岸までは十メートルほどある。

 雨上がりで増水もしているので、できれば近ずくことも避けたかった。一歩間違えれば自分も濁流にのみ込まれる恐れがあるからだ。

 

「うわっ!まずっ!」


 崖を下る途中で跳ねた泥が口に入り、反射的に吐き出す。さらには木の枝や葉で自慢の顔に傷がついていき顔を顰めた。

 これは助け出したら治療代として金を頂こう。命が助かったのだから、多少多めにとっても恨みっこなしだ。


「おっと!あぶねぇ……っ!」


 勢いをつけすぎて危うく川に飛び込む所だった。慌てて木の幹に掴まり、隣の木に足をかける。

 なんとか体勢を整え下を覗き込むと、茶色く濁った水と流木が流れている。これといって別に何もおかしな所はないような感じだ。

 やっぱり空耳だったのだろうか。無駄足だったのかもしれない。せっかくいい肉を手に入れたのに、それを放り出してきてしまったことを悔いた。


「ん?流木、じゃねえよな?何かの建具のような……あと布切れ?……布切れ!?」


 何かの建具に布切れがなぜ上流から流れてきてるんだ。この上は魔物の森しかない。

 確か森を突き抜ければ隣町に行くための近道にはなると聞いているが、そんな命知らずに出会ったことはない。まさかこれはその命知らずが流されたあとなのか。


「マジかよ!?」


 目を凝らし川を見つめる。荷物らしきものはなく、流木と何かの建具、それと布切れがぽつぽつ流れているだけで人の姿はないようだった。

 荷物らしきものがないので、行商人が流された訳ではないらしいが、安心はできない。


「おーい!誰かいないか!?」


 声をかけて暫く耳を澄ませる。川の音しか聞こえない。轟音に遮られ助けを求めることが聞き取りずらいのだろうか。

 もう一度、今度はさらに大きい声で呼びかける。


「……けて。……すけてっ!!」

「!?――まってろ!今助ける!」


 近くからかすかに人の声が聞こえた。

 エリカは改めて目を凝らし、声が聞こえたあたりを重点的に探す。流木とゴミが集まり、そこに何かの布切れも絡まっているので、人がいても気づき難い。

 慎重に探していくと、すぐ下に何か光るものがあることに気がついた。目を細め何か確認する。光る物の正体は宝飾品の金具のようだ。細いチェーンが光を弾き、存在を主張している。

 それは人間の首にかけられているのも見てとれ、エリカは枝を掴んでいた手を離し、慎重に降りていく。


「大丈夫か!?掴まれ!!」

「……たす、け……っ」

「大丈夫だから!!手を伸ばせ!!」


 緩やかなカーブに流木などがたまり、堰き止められている所に女性が一人いた。

 慌てて手を差し伸べるが、女性は意識が朦朧としているのか、ただ「助けて」とうわ言のように繰り返すだけで手を伸ばしてくれない。


「くっそ!」


 乱暴に舌打ちし、周囲になにか使えそうな物はないか探すが、ロープの代わりになるような物はない。あるのは大小さまざまな流木とゴミだけだ。

 エリカは一瞬だけ思案し、自身のスカートを持ち上げると力任せに引き裂き一本の紐にした。その紐の端を木の幹に括りつけ、反対側の端を腰に巻き付ける。

 ただ服を切り裂いただけの紐は、強度などないに等しいが、ただ捨て身で降りるよりはいいだろう。

 両端をしっかりと結んだことを確認し、良しと意気込み下に降りていく。手を伸ばせば何とか女性の腕を掴むことに成功し、そのまま力任せに持ち上げた。


「おりゃあ!!」


 バシャンと勢いよく水しぶきが上がり、頭からかぶってしまったが何とか女性を助け出すことはできた。一人暮らしで牧割りなど肉体労働で筋力がついていたおかげだ。

 それでも平均男性よりは細身のエリカなのだが、そんな彼よりも助け出した女性の方が小柄なので助け出すことができたらしい。

 エリカの腕の中にすっぽりと収まるほど細い女性。少女と言った方がいい年頃に見える彼女は、呻き声をあげる力もないのかぐったりとして動かなくなってしまった。


「え!?マジでか!?」


 呼吸してることを確認し安堵もつかの間、返事のない女性と見下ろし、次に今降りて来た崖を見上げる。

 気を失っている彼女を抱えて上まで行かなければならないのか。体力に自信がないのに。

 エリカは抱きかかえている女性を再度見下ろし、今日一番のため息を吐きだした。




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