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鬼禍刻  作者: 亥乃沢桜那
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悪計

有刺鉄線が張り巡らされ おざなりに「立ち入り禁止区域」の看板が下がった簡素な鉄扉を押し開けると 遠くに霞む「屍」を見遣った。

澱んだ大気の所為で 幽霊の様に其の足元が見えない。


禁止区域 か ―


もっと奥に行けば、正しくそうなのだが 此の辺はただの廃墟でしかない。

行き場の無い子供達は 此の場所で死を目の当たりにする。


狂気に満ちた抗争で命を落とす者 見放されて廃墟を彷徨い、朽ち果てる者

黒い蝶が憑かずとも 人は簡単に奈落に堕ちる


闇は深まるばかりだ ―


青陽は処置無しと言った溜息を一つばかり吐くと 白く乾いた土壌を、いつもの気怠い足取りで歩き 街との境に停めた車へと向かった。

上着のポケットに手を入れると、煙草を取り出す。

簡単な話をするだけだったが、興味深い連中ではあった。




音の無い世界に走行音を響かせて 悪路に車はがたがたと激しく揺さぶられながら廃墟を後にする。

流石の青陽も話でしか聞いた事が無い。

蒼蓮会が守る「禍源の封域」は 「禍い神」が封じられた場所だ。


封印が解かれたのは  遥か昔 神と人が世に共存していた時代

誰かが   隠された其の場所を見つけ 扉を開くと  禍が無数の黒い蝶となり


此の地に闇を齎した


時代は流れ

幾度と無く都市開発の手が及んだが 穢れた土壌には死病が蔓延し

巨大なビルの群れは いつしか「禍い神」の墓標となった

奈落の闇に沈んだ廃墟で 黒い蝶は増え続け ― 其れは人の目には見えない ―

生まれ出でる闇は 更なる深い闇を呼んだ


「蒼蓮会」の祖は 封印が解かれた時から戦い続けている。

現在 此の地は「蒼蓮会」の支配地域と為り 「大いなる災禍」は未然に封じられているが

其の現状は、二転三転し 今此の時も 闇との攻防は続けられている。

腐敗した此の世は禍の温床で 次から次へと放たれる黒い蝶を 未だ止める手立ては無い。

幾ら黒い蝶を祓った所で 「本体」を討たない限り、闇は永遠に広がり続ける。


「封域」に舞う黒い蝶  廃墟には強い瘴気が渦巻き  穢れた土壌には生命も無く ― 


彼の地に赴き 瘴気に冒され、自ら命を絶った者も少なくない。

忍び入った部外者は 二度と戻って来ない。




其れにしても ― 

悪を極めた黒鬼が 唯の鬼子など養子にする筈が無い。裏があるとは重々承知の上でいたが 真逆の非常事態だ。

此処まで来れば もう為る様にしか為らない。此の先あの男がどうするつもりか 等、余計な詮索はしない方がいい。


ただ一つだけ 気になる事がある。


断じて弁護をする訳ではないが 十年前のあの日 黒鬼が私欲の為だけに「封域」に入り、悪計に邪魔な同胞を始末したとは思っていない。

長連中の中で最も扱い辛く、動向には度々手を焼いてはいる。蒼蓮会で黒鬼に「力」で勝る者はおらず 誰に、何に対しても躊躇も容赦もしない真性の鬼だと知らぬ者はない。極悪非道な振る舞いなら常套化しているが、「此方側」の同族を討つ程ではない。相手の出方と同等の処置を執るのは、時と場合に因ってはやむを得ないだろう。

《《あの場》》で互いに行き過ぎたとしたなら ― どちらかが 裏切り行為に出たと言う事だ。

頭の切れる男だから何か考えが在るのだろうが 黙して語らない性格が要らぬ誤解を招く。

例の一件には 青陽も少なからず疑念を抱いている。


「封域」を包囲する陣を敷いているのは「五嶺皇」だ。

シマ内の「封域」に異変があれば 長が討って出るのは当然だが


あの時 魅鹿の先代は 《《どちら側》》の鬼であったのか


今以て青陽に分かっているのは 謀に巻き込まれた者達が、此の世から抹消されたと言う事実だけだ。

嫌疑がかかっている鬼華の長は、未だに追及の手を逃れている。


其の真相を明らかにするのは青陽の「仕事」では無い。

此の件に深入りすれば 青陽とて「消される」可能性は十分にある。

今以上の面倒事は御免だ。

アクセルを踏み込むと 青陽の車は追い縋る闇を振り切って、虚な街へと走り去った。




「つか 何食ってんの其れ」

抑揚の無い声を掛けられて

「何って何? リュックの中に入ってるだろ」

予想通り 質問の意図を分かっていない怪訝な顔と、そんな事も知らないのかと軽視した答えが返って来た。

「… へー」

先の戦いで心身共に疲弊の真っ直中にいる級友が、長旅の序盤で食糧に手を出したからと言って 咎め立てするつもりは無い。

「あっちぃー

「もうムリ。休憩」

学院に戻ろうと思えば、さして時間もかからない様な場所までしか来ていないが 夜半になっても大気の熱は衰えず 暑さに弱い雪鬼には酷だろうと言う事も頭では理解している。

頑是無い子供の引率を任され、先行きが不安になっただけで どれも大した問題ではない。


真面な思考を持って、文句も言わずに ― 口がきけないだけだとは言え ― 大人しく従ってくれているのが 闇堕ちした鬼だけだとは



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