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鬼禍刻  作者: 亥乃沢桜那
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幻覚

硝子の銃弾を間断なく撃ち込まれ 蜂の巣にされた体を蠢かせながら、修復作業にあたっていた巨人は 頭を作り上げると、黒い炎を燃やす鬼に顔の無い顔を向けた。眼はなくとも、「其処」から凄まじい念を発して 蠢く指先が不気味にざわめく。

一縷は其の場から動こうとせず 蛇の舌の様にちろちろと細く炎を吐き出し、紅い眼は巨人の一挙手一投足を見ている。

巨人はまたしても首を伸ばして、一縷の前に醜い頭を突き出した。同じ手口かと思われたが 鋭い歯の並んだ虎挟みを口に仕込んで、みしみしと音を立てて大きく開き 蠢いていた指先から、鎌状の爪が藁を散らして飛び出すと 地面に固い音を立てて下ろされた。

暗雲の様に湧き上がる、おどろおどろしい気迫が闇を覆い隠す。

巨人は肘を曲げて体を低く保ち 小さな獲物に狙いを定め、襲い掛かる体勢に入った。


「構うな! 殺れ 一縷!」

矢張り、巨人の急所は「心臓」だったが 「死」は繋がっていないと一縷が証明して見せた。巨人を斃したところで 弐弧には偽の痛みが伝わって来るだけだ ― あの壮絶な痛みが

   馬鹿 恐れるな

一縷の攻撃に迷いが出る。気取られてはならない。痛みの余韻がまだ抜け切れず、体は戦慄いていたが 口は精一杯の虚勢を吐き出した。


「其れは自殺行為だと思うよ?

「勝手に早合点して取った君の軽率な行動が 呪いを加速させたかも知れないのに

「其の可能性は考慮に入れないのかな?」


― 痛みを分かち合う度に  近付いていく


そうだ。

聞いていた筈なのに。

「…!

悔しさに返す言葉も見付からない。

其の図体から愚鈍だと思い込んでいた巨人は猛烈な速さで爪を振り回し がちんがちんと牙を打ち鳴らしては、獲物に喰らい付きにかかった。

一縷は攻撃を躱しながら 其の巨体を足場にして虚空に浮かぶ男に迫るも 執念深い巨人の腕が割って入り、本能的に炎を纏った爪で払いのけたのだが

高々其れだけの事で 弐弧の腕は声を抑えきれない程の凄まじい激痛に襲われた。偽の痛覚なら歯を食い縛ってでも耐えたが 一縷の炎を受けた腕が、灼熱の痛みを伴って火傷を負った様に真っ赤になっている。腕に触れた手の熱さに戦慄が走った。


幻覚が 現実へと変わる ― 


「如何すれば斃せるか 君は頭が良いから、もう分かってる筈だよ

「早く友達を呪いから解き放ってあげたら?」


と言っても

此処では 言葉は本当の意味を成さない

此処では 本当の事など何一つ無い

此処では 騙された者が死ぬ


そう 呪いは呪詛人形に最初に攻撃した者が受ける

攻撃を受ける度にシンクロ率が上がる、と言うのはある意味正しく ― 髪の毛のくだりは全くの噓だ

攻撃する事に因って、跳ね返って来た痛みに

恐れをなし 疑心暗鬼に駆られた愚かな心が、負の念を糧にする呪いをより一層強固なものにする

つまりは ― 呪いの存在を信じ、恐怖する程シンクロ率が上がる と言う言い方が正しい 

皮肉にも、呪いに効力を与えているのは「自分自身」であり


斯くして 此の呪いは 上り詰めた先に待つ「死」に因って成就するのだ


此の鬼は其の事に何処まで気付いただろうか

どの言葉を拾い上げて どの言葉を切り捨てるのか ―



「な … !?

弐弧が放った銃弾は一縷の右肩を貫き 黒い炎の中に紅々とした血が弧を描いて飛んだ。

「馬鹿!何やってるんだよ、どけ!」

弐弧と同調する此の巨人が全てにおいて邪魔になっている。一縷が弐弧を傷つける事を拒否するのなら 自ら排除するしかない。そう思って放った銃弾が 巨人ではなく一縷を撃ち抜いた。戻って来る銃弾は辛うじて躱したが 明らかに撃たさせまいとして《《一縷が銃弾の前に立ちはだかった》》のだ。

理由は分からない。否


今度は 《《本当に心臓が吹き飛ぶ》》のだろうか ―


自身の死は間違えようも無い、そう予知したのは自分だ。其れに

白い髪の男は 正に心臓を寄越せと言っていたではないか。


だが他にどうしようがある?一か八かでも遣るしかない。



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